6 専門知識を誇示しない


 自分に専門知識があるところを示して、たとえば、「そうなった原因は、システムがある特定のシグナルを認識して……」などと話してはならない。苦情客にとっては、あなたが何を知っていようと、システムがどのように設計されていようと、関係のない話だ。彼らが知りたいのは、自分がこのトラブルで被った痛みを、あなたが感じてくれているかどうかなのだ。自分の話を聞いてもらい、腹を立てるのはもっともだと同意してほしいのだ。

 教育の分野であった事例だが、ある母親がわが子の通う学校にやってきてこう言った。「シュミット先生は娘のクリステンを公平に扱ってくれません。彼女は教師として未熟です。こんな扱いは正しくありません」そう言われたら、校長をはじめとする学校側は、教育分野における自分たちの知識や実績を持ち出して抗弁したくなるかもしれない。問題を指摘されている教師についても、信頼できる人物であるとか、課題を抱えた生徒への対応にも定評があるとか、いろいろ話したくなるかもしれない。だが、その衝動に流されてはならない。

 そんな話で相手に伝わるのは、「私たちは教育のプロだ。生徒指導も学校経営も熟知している。あなたはただの母親でしかない」というメッセージだ。

 たしかに、彼女は子を守ろうとする母熊にすぎないかもしれない。初等教育に関する学位も持っていないだろう。だが、母熊には爪も歯もあることを忘れてはならない。苦情は慎重に扱わなければ、関係者全員にとって面倒な事態に発展する可能性がある。

7 物取りのための苦情だと思ってはならない
 何か(たとえばお金)が欲しくて苦情を言っていると決めつけてはならない。ほとんどの場合、彼らはただ話を聞いてほしいだけだ。心のモヤモヤを取り除きたいのだ。自分の意見を尊重してほしいのだ。多くの場合、それだけで溜飲を下げてくれる。