●深セン滞在中に体験したイノベーションのレベル

 話は変わるが、イノベーション研究者としては遅ればせながら、最近中国の深センを訪れた。検索や地図にはGoogleやYahoo!ではなくBaidu(百度)を、チャットにはLINEではなくWeChat(微信)を、支払いにはSuicaではなくWeChatPay(微信支付)を使った。

 実は、外国人がWeChatPayを使うにはかなりの苦労を伴う。中国の銀行口座と紐付いていないと、電子マネーが原則チャージできないからだ。そして、中国の銀行口座を外国人が開設するのもとても難しい。中国人による不正な外貨持ち出しを防ぐための措置なのだろうが、外国人には不便なことこの上ない。

 とはいえ、いろいろと調べていくと、外国人でもWeChatPayにチャージをする手段があることがわかったので、深セン滞在中に商店、レストラン、地下鉄などさまざまなところでWeChatPayを使ってみた。

 BaiduもWeChatもWeChatPayも日本で有名な中国のITサービスであり、深センをはじめとする中国のIT業界の先進性を示す代表例として挙げられることも多いが、実際使ってみた印象は「どれも80%の完成度」という感じだ。

 Baiduも、中国語を母国語としてないからという理由もあるかもしれないが、検索エンジンはGoogle、Yahoo!のそれと比べて優秀とはいえない。地図アプリも悪くはないのだが、Googleやアップルより良いかといわれると、それほどでもない。

 そもそもの地図データの精度でいえば、やはり日本のゼンリンには敵わない気がする。WeChatも中国では、日本におけるLINE同様にとても便利なコミュニケーションツールであるが、デザインや操作性などはLINEに比べると洗練されているとはいえない。

 WeChatの一部のサービスとして提供されているWeChatPayも同様だ。支払いには店舗側のQRコードを読み取るか、こちらのQRコードを表示させて店舗側にスキャンさせるかの2通りがあるが、QRコードの読み取りと表示では異なるメニュー操作から入っていくので、シームレスで一体的な操作感はない。

 また今回、現地のスマートフォン本体と現地の通信会社の通信SIMカードを利用したのだが、IT先進都市深センでも意外と圏外や電波の弱いところが多く、そうしたところではWeChatPayを使った決済ができなかったり、時間がかかったりする。日本でFeliCa技術を使ったSuicaや楽天Edyなどの非接触IC電子マネーを使い慣れていると、スマートさは感じないし、むしろじれったい思いをすることも少なくなかった。

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中国の決済システムは80%でも十分な完成度