●中台企業連合の傘下に入ったJDIにも「ジオングの脚」問題

 話は再びガンダムの世界観に戻るが、冒頭で述べた、ジオングに脚をつけたがる日本企業は、100%の使い勝手、デザイン、セキュリティを求めすぎて、かえってビジネスモデルとしてのバランスを崩していないだろうか。

 ファーストガンダムの前半では、戦闘の主力兵器は人型ロボットであるモビルスーツであった。しかし中盤以降になると、人型の形態にこだわらない「モビルアーマー」という兵器が登場する。宇宙戦争の主力が人型のモビルスーツによるものという思い込みのある既存の軍幹部にとっては、人型という形態は過去の成功体験であり、思い込みであり、惰性でもある。新しいタイプの機器に対する理解が追いつかない、非連続なイノベーションが起きていたと考えられる。

 翻って、冒頭の若い整備士はモビルアーマーという新兵器をよく理解し、人型であることにこだわらない。だから「モビルスーツか、モビルアーマーか」という形態の違いにこだわらない、若く新しい発想ができていたのだろう。ちなみに、コアなガンダムマニアの間でも、ジオングはモビルスーツなのかモビルアーマーなのかで議論が分かれる。余談であるが――。

 それを考えると、国際競争で劣勢になって久しいといわれる日本企業も、既存の技術開発の経験や技術力だけで市場を切り開いてきた過去の経験が、ジオングに脚をつけたがらせているのではないだろうか。新技術は常に正しいもの。技術は価値を産み出すもの。機能や性能はないよりもあったほうがいいもの――。そういう思い込みが、日本の技術開発にコストやビジネスプラン抜きの「技術優先シナリオ」をもたらしているように思える。

 もう1つの例を挙げたい。最近、中台企業連合の傘下に入る方向で調整が続いているジャパンディスプレイ(JDI)のケースについても、「ジオングの脚問題」が垣間見られる。

 JDIは既存の液晶技術を磨き上げ、有機ELとも張り合えるだけの液晶技術を有していたが、産業革新機構が歴代送り込んだ経営者は、同社の液晶技術とそのビジネスの可能性を正しく理解していたとはいいがたい。

 2015年に同社のCEOに就任した本間充氏は元三洋電機の電池事業に従事した人物、2017年にCEOに就任した東入来信博氏は有機ELパネル開発を行うJOLEDの社長であり、JDIの方向性を中途半端に液晶と有機ELの間でブレさせた(これは後述するが、JDIの経営者だけの責任ではないことをお断りしておく)。パネルメーカーとしての浮沈がかかっているときに「ヘルメット用ヘッドアップディスプレイだ」「BtoCだ」と言い出したのも、謎としかいいようがない。

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常に新しい技術に目移りしてしまう日本企業