●常に新しい技術に目移りしてしまう日本企業

 近年、大型テレビでも中小型パネルのスマートフォンでも、有機ELが新技術として登場し、もてはやされてきた。さらなる製品技術の革新、機能性能の向上を常に良しとする日本企業は、既存技術に立ち止まることを知らない。「新技術が常に良いもの」という信仰に囚われている日本人は、ビジネスの全体像と技術とのマッチングを考えるよりも、常に目新しい技術に目移りしてしまう。

 有機ELパネルにしても液晶パネルにしても装置産業であり、規模の経済が効き、大規模でスピーディな意思決定と設備投資をしたものが勝てるビジネスである。仮に製品技術として80%の完成度であったとしても、生産工程を磨き上げ、歩留まり良く大量生産を行なえば、そうした製品が普及し利益を生み出すのが、現代の国際分業化したエレクトロニクス産業である。

 JDIの規模を考えれば、中途半端に液晶と有機ELに二股をかける余裕はなかったはずである。また、有機ELも万能ではなく、熱に弱いなどの問題があるため、車載用途などではまだまだ液晶が主流になり続けると見られる。

 こうしたビジネス環境の中で、なぜ、ただでさえ制約の大きい経営資源を分散させてしまったのだろうか。確かに液晶は既存技術であり、有機ELには液晶に勝るメリットもある。しかしその差が、大きなビジネスの差に本当になっているのだろうか。日本で売られているスマホの多くは高級機種であり、ハイエンドの氷山の一角を見ているに過ぎない。グローバルな市場では、こなれた生産を実現している液晶パネルを搭載した低価格スマホが市場を下支えしている。

 早くから有機ELに投資を始めた韓国企業が、有機ELに熱を上げるのはまだわかる。しかし、中小型有機ELパネルに強いサムスン電子に対して、大型テレビ向け有機ELパネルが得意なのは、同じ韓国企業でもサムスンのライバルのLG電子である。こうした状況で、サムスン電子はテレビ事業に関しては戦略的に有機ELに力を入れていない。

 当然のことである。経営学者のマイケル・ポーターを持ち出すまでもなく、相手企業が有利な市場で戦うのは避けるべきである。サムスンほどの体力のある企業でも、自社に不利と思えば戦略的に既存技術に留まることがあるのだ。

 一方のJDIはどうだったであろうか。2015年頃から実用化が進んでいた同社のフルアクティブ技術を用いた液晶パネルは、フレキシブルな形状の実現や狭額縁など、有機ELが得意としていた特徴を液晶でも実現していた。その頃から大胆かつ迅速にフルアクティブ技術の量産に向けた開発投資、生産設備投資を行っていたら、その後の状況は大きく違っていたのではないだろうか。

 ちなみに、現行のアップルのiPhoneの3モデルのうち2モデルは有機ELパネルだが、1モデルはJDIのフルアクティブパネルである。見る人が見れば違いはわかる。だが、多くの人はその差を感じないだろう。80%の完成度でも多くのユーザーは気にしないのだ。

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JDIの内外の「ジオングに脚をつけたがる人々」