●ゴーンが初期に目指したのは対等なアライアンスだった

 フランスの会社法では40%以上出資を受ければ子会社であり、その子会社は親会社の議決権を有することはできない。従って、この15%には議決権がない。日産は議決権がないルノー株式を保有しているに過ぎないことから、実体としての親子関係が変化したわけではない。

 これには、株式市場で大きな議論が沸き起こったことを記憶している。本来なら、ルノーは日産を支配し、出資比率は支配権を固める50%超を目指すところだ。しかし、ゴーン氏が重視したのは対等な精神に依って立つアライアンスである。数多い自動車メーカーの合従連衡で、このアライアンスだけが大きな成功を収めた理由の1つだと考えられている。

 もう1つが、オランダに設置した、ルノーと日産が対等出資する子会社のルノー日産BVだ。これは、ゴーン氏が定めた対等なアライアンス運営を象徴する存在だ。ルノー日産BVは、ルノーと日産のアライアンスの共通戦略の構築、シナジーの管理、購買、IT、資金管理などの共通本社機能を持つ。

 通常なら、統合機能は日産とルノーの上位に置かれ、支配下のグループ会社を全体最適する形となるものだ。ところが、ゴーン氏は敢えて両社の下部組織に意思決定機能を置くことで、対等な関係を生み出し、シナジーを最大化することを目指した。

 しかし、この仕組みは信頼関係の維持や利益相反の回避など、両社をしっかりと統治できる強力な経営者を必要とした。権力が集中したゴーン氏のような経営者が君臨できた要因は、こういったアライアンスの統治構造にある。

「シナジーと不満」の第2期は8年間と長い。まずは、2005年3月にゴーン氏はルノーのCEO兼会長に就任した。同時に日産のCEO兼会長でもあり、ルノー日産BVのすべてを掌握する絶対権力を有することになった。

 親子上場自体が、日産の少数株主と親会社であるルノーとの利益相反を生む構造である。ましてや、2つの上場企業のトップが兼務されていることは、「利益相反」の問題が大きすぎ、ガバナンス構造には多大な問題があると認識されていた。

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次第にシナジーへの不満を募らせていった日産