●作る時間より食べる時間を大切に

 私の料理の原点は、祖母と母にあります。両親が共働きだったため、私は母方の祖母と多くの時間を過ごしました。

 祖母は質素な暮らしの中で、庭の花をいけたり、自分で収穫した野菜で料理したりしていました。

 その姿に、私は幼心にも豊かなものを感じていました。

 母からは、四季を大切にした料理や着付けなど、日本人としての感性を育まれたと思っています。

 その後、結婚したフランス人の夫の母は、元料理人で、4人の子どもを育て上げたパリジェンヌなのですが、彼女の料理がすばらしくおいしい。

 私は日本にもフランスにも、家庭料理には同じようなシンプルな豊かさを感じています。フランスのお母さんたちが毎日作るような素朴で温かい料理や、祖母や母が作ってくれた懐かしい料理を作りたい。

 ですから、さまざまなご家庭でフランス家庭料理から和洋中、エスニック料理まで、幅広く作れるこの仕事にやりがいを感じています。

 この本では、家族構成の異なる5軒のご家庭で、私の3時間の料理風景を詳しく紹介しました。

 作りおきがメインになっていますが、献立作りのアイデアや、おいしく作るコツを、できるだけわかりやすくお話ししたつもりです。

 たくさんの食材がなくても、珍しい調味料がなくても、手早くできる贅沢なレシピを、家庭でご堪能いただけたらと思います。

「作る時間より食べる時間を大切にする」これもフランス人に教わったことです。

 でも、働くお母さんやお父さんたちはそうしたくてもなかなか時間がないもの。

 この本が、今夜の献立に迷わなくなったり、段取り上手になって料理の手間が減ったりするお役に立ち、食卓でおしゃべりを楽しむ時間が少しでも増えたらうれしいです。

 家族みんなでささやかでも豊かな食卓を囲めますように。温かい時間を持てますように。それが、私の願いです。