
大人気の立ち食いステーキチェーンの生みの親である一瀬邦夫・ペッパーフードサービス社長は、その1号店をオープンする約1ヵ月前の2013年秋、ある人物と食事を共にした。その席で、新たに挑戦する業態の構想を、メニューを披露しながら熱弁してみせた。
構想を一通り聞くと、その人物は共感して言葉を返した。
「うちは自分でステーキをやるつもりはないから、あなたが『俺のステーキ』の名前でやってみてはどう?」
言葉の主は、立ち食いで高級フレンチやイタリアンと同じメニューを、格安で提供する「俺のフレンチ」、「俺のイタリアン」を大ヒットさせた坂本孝・俺の社長。そもそも一瀬社長は“俺のシリーズ”の人気に背中を押され、新業態の立ち上げに踏み切っていた。もともと顔見知りの2人。この日、一瀬社長は再び強く背中を押されたのである。
決して冗談ではなかったであろう俺のシリーズ入りの申し出に感謝しつつ、一瀬社長は新業態を「いきなり!ステーキ」と命名した。前菜なしでいきなりステーキを食べるという業態スタイルをそのまま伝えるものだ。
1号店は大当たりした。「立ち食いで高級ステーキを食べる」という斬新さ、「立ち食いだから早い。早いから安い」という単純明快なモデルが消費者を引き付けてやまなかった。
本誌の外食利用者アンケートによると、利用増加率ランキングでは全業態中1位。レストラン業態(41ブランド)のうち顧客総合満足率と料理満足率で共に6位、コスパ満足率は10位だ。
顧客満足率において、俺のシリーズはさらにその上を行く。
俺のフレンチはレストラン業態で総合、料理の満足率が共に1位、利便性、コスパの満足率は共に2位。全業態を対象にしたランキングでは、総合満足率3位、料理とコスパの満足率は共に2位だ。
それでも、チェーンの拡大では、いきなり!ステーキの方がはるかにスピード感を持っていた。ビジネスモデルが俺のシリーズよりも拡大しやすいものだったからだ。