この「マイクロファイナンス」ともいうべき電子決済を支えているのが、テンセントの「微信支付(ウィーチャットペイメント)」と、アリババの「支付宝(アリペイ)」という二大サービスだ。

 かつて中国のITジャイアントの頭文字を取って「BAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)」と呼ばれたこともあったが、時価総額40兆円を競うテンセント、アリババに比べて、バイドゥは約7兆円。大きく水をあけられてしまった背景には、昨年来の不正医療広告スキャンダルが尾を引いていることもあるが、電子決済サービスを手掛ける2社との格差が開いたともいえる。

 実際に、中国の超キャッシュレス社会を体験してみたいと思い、銀行口座を作ることにした。

 現在、外国人が銀行口座を作るハードルが高くなっている。政府が人民元の流出を防ごうとコントロールしているようだ。口座開設の難しさについては事前に分かっていたので、研修目的で現地企業に雇ってもらい労働実績を作ることで口座を開設できた。

 ちなみに、口座開設には中国の携帯電話も必須になる。ただし、スマホを購入すること自体には特段のハードルはなく、すんなりと買うことができた。

 後ろめたいことはないのに、たった1枚のクレジットカードを作るだけで半日も要してしまった。これで全ての準備が完了!

 早速、モバイクに乗ったり、買い物をしたりとスマホ決済にトライしてみた。配車アプリだけは、中国語を使えない人にはハードルが高め。タクシーの運転手が「近くまで来ているよ」「どこにいるの?」と電話で話し掛けてくるので、今回は使いこなせず断念した。

 スマホ決済は財布を持つ煩わしさがなく、ストレスがない。日本では、手数料の高さからクレジットカードが使えない飲食店が少なくない。コンビニでの買い物は小銭で、切符はJR東日本の「スイカ」、飲食店ではクレジットカード決済と現金決済を併用──となると、結局、普段から電子マネーも小銭もお札も持ち歩かなければならない。つくづく、日本のIT後進国ぶりを痛感した。

 もっとも、中国にも影の部分はある。スマホ決済がこれほど急ピッチで浸透した背景には、マイナンバーの普及がある。身分証明のマイナンバー、銀行口座、携帯電話番号の情報がひも付いて政府に管理されているということだ。

 つまり、「中国での豊かで便利な生活を手に入れるには、まず中国人であることが条件」とある現地駐在員は言う。個人情報を差し出すことと引き換えに、生活の便利さ、豊かさを手に入れることができるというわけだ。

 また、電子決済などITに次ぐ中国の強みとして、「イノベーションを創出する力」「開発力」を挙げる人は多い。

 昨年末、アリババ以来、香港市場で最大規模のIPOになったことで有名になった企業がある。美顔アプリを開発しているMeituは、ついに動画でも美顔を維持し続けられるハードウエアまで作ってしまった。

 実は、種を明かせばこのハードウエアは、ソニー製のCMOSカメラと日系メーカーの画像処理技術を融合することで生まれた商品。この「盛りまくる動画ケータイ」の最高機種は10万円近くもするがたちまち人気となり、飛ぶように売れている。

 かつて、“盛る”ことに関しては先駆けだったギャル系雑誌「小悪魔アゲハ」がはやり、ハードウエアを作る力もあった日本でこうした突き抜けたヒット商品が生まれない。

 日本の時が20世紀で止まっている間に、中国はIT・イノベーション大国への階段を駆け上がっていたのである。