リモノは車体を軽くするため構造材などには樹脂を多用している。大手総合化学メーカーの三井化学が、その樹脂を提供している。「伊藤さんたちのコンセプトに心から共鳴しました。研究員は私が指示した仕事はつらそうにやっているけれども、リモノの開発は手弁当で楽しそうにやっている。伊藤さんたちの思いが続く限り、その想いに応えられるよう頑張っていきたい」(星野太 常務・研究開発本部長)。

 車体の生地を提供しているのが、高機能繊維メーカー大手・帝人の子会社、帝人フロンティアである。「わが社はテントの生地を販売して60年になります。戸外で使えるということがリモノのコンセプトに合致したのでしょう。生地は防水性、防火性があり、リサイクルもできます。クルマというのはいままでなかった用途なので、ワクワクしています」(野田賢一東京キャンバス資材課長)。

 とりわけ意外なパートナーとしては、電子楽器で有名なローランド。リモノ専用のサウンドを作り上げた。クルマにとって音は、実は情報の伝達手段なのだ。例えば、ガソリンエンジン車ならスピードを上げればそれに応じたエンジン音がするし、ウインカーを出せばカチ、カチという音で動作中であることを、バックする際にも警告音で外部に知らせる。つまり、音は運転者向けと外部向けという二つの情報伝達の役割を負っている。

 ローランドが創り上げた音は3種類。それぞれ「リモノが○○だったら」というコンセプトで作られている。一つ目は「楽器を積んでいたら」、二つ目が「ロボットだとしたら」、三つ目が「ぜんまい仕掛けだとしたら」という状況をイメージしたサウンドだ。音を届けられないのが残念だが、やはり音は直感的にハートに響く。どのサウンドも01の「かわいい」を引き立てていて楽しさ倍増だ。

「将来的にはユーザーが好きな音色をダウンロードして、音を入れ替えられるようにできると楽しいなと思っています」(伊藤氏)。

 ローランドの宮本多加男RPG新規事業推進部長は「伊藤さんとは今年の3月24日に秋葉原の居酒屋でお会いした。伊藤さんがノートPCでプレゼンテーションされて、それならやりましょうとなった」と話す。出会いからわずか2ヵ月足らずで、これらの音が創作されたというわけだ。

 根津氏が開発の過程をこう振り返る。「このプロジェクトはこういう方々に支えられて、ここまで来ています。会社の大小はあまり関係なくて、結局どういう方がその会社にいらっしゃるか、いかにそういう方々とがっちり手を組んでいけるかが大切なんだと再認識しました」。

●いまのままでは商品できない理由

 パートナーたちの思いが詰まったリモノも、このままでは販売することができない。もっとも大きな障害は規制の存在だ。

 表1で分かるように、現在、日本の車両カテゴリーにはリモノに適合したカテゴリーがなく、街の中を走れないため商品化できない。国土交通省が、「超小型モビリティ制度」を設けて、13年4月~16年3月まで、実証実験を行ってきたが、新しい規格がつくられるかどうか、現時点では見通せないという。

 小型車先進地域のヨーロッパでは「欧州L6e」という規格がある。定員2名のマイクロEVで、車両重量350kg以下、、最高速度45km以下、14歳以上であれば原付免許で運転可能というものだ。伊藤氏らは、これと同様な「日本版L6e」の導入を切望している。

 現状の規格のままでは商品化できない以上、来年夏ごろにミニカー規格に則った一人乗りモデルを発売目指すが、あくまで「日本版L6e」規格導入までの暫定モデルという位置づけだ。本命のリモノが果たして市場に受け入れられるかどうかは分からない。ただ、規制が変わらなければ、その挑戦権すら封印されたままになることだけは確かである。

(「週刊ダイヤモンド」論説委員 原 英次郎)