それをした学生は、「次の学期が始まる頃には、前の学期に覚えたことを何一つ思いだせない」と、ミズーリ州セントルイスにあるワシントン大学の心理学者、ヘンリー・ローディガー3世は私に話してくれた。「その授業をとったことがないかのような状態になる」

 分散効果は、新しいことを覚えるのにとくに有効だ。たとえば、電話番号かロシア語の単語が15個並んだリストを2種類用意する。一方のリストはその日と翌日に10分ずつ覚える時間を設け、もう一方のリストは翌日に20分かけて覚える。そして、1週間後に両方のリストをどれだけ覚えているかテストする。明らかに違いが現れるはずだ。ただし、なぜそうなったかははっきりとはわからない。(中略)

●試験までの期間に応じて学習間隔を変える

 学習時間を分散する最適な間隔について研究されるようになったのは、ここ数十年のことだった。毎日少しずつ、一日おき、週に一度……。いったい、どの勉強の仕方がもっとも効率が良いのか?

 今日が火曜日で、金曜日に歴史の期末試験があるとしたら、どう勉強時間を分散させればいいのか?試験が1ヵ月後の場合はどうか。試験までの期間に応じて、勉強時間を分散させる間隔は変わるのだろうか?(中略)

 2008年、カナダのヨーク大学で心理学を研究するメロディ・ワイズハートは、カリフォルニア大学の同業者ハロルド・パシュラーとともに研究チームを結成し、先の疑問に初めてちゃんとした答えを与えるための大掛かりな実験を行った。

 まず、実験の被験者として幅広い年齢層から1354人を選んだ。選ばれたのは、オンラインで作業する「遠隔調査」の協力者として、アメリカ内外から登録したボランティアたちだ。

 彼らは、32のあまり有名でない事実を勉強することになった。

 たとえば、「スパイスの効いたメキシコ料理がもっとも食べられているヨーロッパの国はどこか?(正解は)ノルウェー」「雪上ゴルフを考案した人は誰か?(正解は)ラドヤード・キプリング」「1492年にコロンブスが新大陸に向けて出港したのは何曜日?(正解は)金曜日」「スナック菓子『クラッカー・ジャック』のパッケージに描かれた犬の名前は?(正解は)ビンゴ」というものだ。

 被験者にはこれらを学習する機会が2回与えられた。グループAの被験者は、2回の学習時間のあいだに10分の休憩しか許されなかった。グループBの被験者は、1日あけて2回目の学習に取り組んだ。グループCは1ヵ月あけて2回目にのぞんだ。

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