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おじいちゃんち、160円。

文・内藤みか

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 先日の良く晴れた日曜日、息子がとんでもないところに出かけて帰って来た。
「今日はどこに行ってたの?」
 何気なく交わす、いつもの会話。大抵息子の答は秋葉原だったり、本屋さんだったりなのだけれど、今回は違った。

「おじいちゃんち」
「......ええっ!?」

 あまりに突然そう言われて、言葉を失った。私の父親はすでに亡くなっているので、息子がおじいちゃんと呼べる人は、たったひとり、つまり元ダンの父親しかいない。
「冗談でしょ?」
 と聞いたが、どうやら本当に行ってきたらしく、おうちの様子や、いただいた食べ物の話などを彼は得意げにぺらぺらと喋っている。

 私は青ざめた。
 元ダンが再婚してもう数年ほどになる。新しい奥さんは、息子のことを「しつけが悪い」「態度が悪い」などと毛嫌いし「もうパパとは二度と会わないでいただきたい」と告げてきた。私もそして元ダンも彼女の命令に従っているのに。

 もし、おじいちゃんちに元ダン一家が遊びに来ていたら、ちょっと面倒なことになっていたことだろう。しかし幸いにも、いなかったという。私は胸を撫でおろした。

 息子には通学定期があったので、160円上乗せすれば、おじいちゃんちに行くことができた。わりと近くだなと彼は前からわかっていたのだという。そして駅に降り、記憶だけを頼りに商店街を歩き、見覚えのある店に辿り着いたのだ。

 息子がなぜ祖父母に会いに行ったのかというと、そこで飼われている犬に会いたくなったからだった。残念ながら犬は亡くなっていて会えなかったそうだけど、彼は妙に満足した表情だった。きっとおじいちゃんおばあちゃんが歓迎くれたのだろう。

 私は「もう行くな」とは言えなかった。彼らが「もう来るな」と言ったのならまだしも「またいらっしゃいね」と言ってくれたからだ。だから、
「行く時には電話をしてから行くようにしなさいね」
 と言うのが精一杯だった。

 離婚する前から私は元ダンの両親とはあまり親しくはない。今回も御礼の電話をあえて入れなかった。でもきっと向こうも嫁は苦手でも孫は可愛いに違いないのだ。息子の冒険でつながった微かなご縁を、私はむしろありがたく感じている。


(更新 2012/4/19 )


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プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

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