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チェンジできず、7000円。

文・内藤みか

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 最近はありがたいことに、一緒にごはんを食べてくれるイケメンさんが大勢いる。なので出張ホストはもう必要ないかなと思っていたのに、突発的に呼んでしまった。桜が咲いている夜だったので、気持ちがふわふわして、急に恋愛ごっこをしたくなってしまったのもしれない。

 指名したのは、りりしそうな眉が印象的な、目鼻立ちが整った二十代半ばの男性。メールの受け答えも丁寧だったし、これは当たりだろうと楽しみにしていたけれど、結果から言ってしまうと、大はずれだった。

 彼は、確かに顔は整っていたのだけれど吹き出物で満ちていて、気の毒になるくらいだった。そしてよろしくと差し出してきた手は汚れており、すべての爪は伸び、中が真っ黒で、私は握手をすることができなかった。
 清掃のバイトもしているというから、普段から手が荒れがちなのかもしれないけれど、爪くらい、切れるだろうに。

 ホストが気に入らなければキャンセルやチェンジもできるらしいのだけど、さすがにキャンセルを告げる勇気が出ない。ああ、2時間という予約時間がどれほど果てしなく長く感じたことか。

 しかたなく「ごはんでも食べましょう」と彼と歩く。本当は夜景がきれいなバーでお酒でも飲みたかった。でも私が彼を連れて入ったのは、定食屋。そこでもお茶碗を持つ彼の爪の汚れが気になってしかたがなかった。

 爪の中が黒い出張ホストに、私は以前も遭遇したことがある。その彼も顔立ちはとてもいいのに、家出中でお風呂にもろくに入っていないとかで、爪や袖口が汚れていた。

 私は定食を平らげた後、「仕事を思い出した」などと適当な理由をつけて、2時間を待たずに先に帰った。これ以上彼と話すこともなかったからだ。店にクレームをつければ多分料金はタダになるケースだと思うのだけれど、彼は出張料は2時間で5000円です、と1円もおまけしない姿勢を見せた。結局私は出張料5000円と定食代2000円と合計7000円も使ったのだった。

 帰ってから彼にメールで「あの爪はちょっとどうかと思う」と送ると、「あの日はお手入れし忘れちゃってました」と返ってきた。でもあの指は間違いなく、日ごろからお手入れなどしていない。

「遊ぶ金が欲しい」と彼は繰り返していたけれど、自分が遊ぶ金を得るためには、まずお客様を楽しく遊ばせなければならないと思うのだけど......。少なくとも私はもう二度と彼を指名しないだろう。


(更新 2012/4/12 )


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プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

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