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元出張ホスト、210円。

文・内藤みか

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 出張ホストをやめたイケメンさんから、久しぶりに連絡が来た。相談があるから会ってほしい、というのだ。

 なぜか私はホストや出張ホストだった男子の転機に呼び出されることが多い。ずっと夜の世界で生きてきた彼らには、私は外の世界への道案内人のように見えるらしい。

 彼らには、夢はある。でもその夢を叶えるためにどうしたらいいのかがわからないという。たとえば童話作家になりたい、たとえば古着を買い付けてきて古着屋さんをオープンさせたい。でもその方法を知らず、「何でも知っていそうなので」と私に連絡してくる。

 今回の彼は何の相談かと思ったら「芸能界に入りたい」とのことだった。何をしたいのと聞くと、「歌手でも役者でもモデルでもなんでもいい。とにかく芸能人になりたい」と言う。それなのに、レッスンを1度も受けたことはない。

「まず自分でボイストレーニングなどを受けながら、オーディションを地道に受けていくしかないと思うよ」
 と伝えても、
「内藤さんのコネで何か仕事ありませんか」 
 とすがる。
 今まで彼はこうして女性にすがればなんとかなってきたのかもしれない。でも、芸能の仕事となると、そう簡単にはいかないのに。

 彼は履歴書と、それに貼る全身写真を持っていた。芸能事務所に応募するつもりなのだけれど大きい封筒をどこで買えるかわからないという。
 私は100円ショップに彼を連れていき、履歴書が入る茶封筒と、写真を貼るノリを薦めた。彼とレジに並ぶ。さあどうするかなと思って見ていると、ブランド財布を取り出し、自分で210円を支払った。

 私は彼のお財布を見るのも、初めてだったが、出張ホストをしていた時に客がくれたのだという。
「すごいんですよ、出張料金を支払う時に、この財布ごとくれたんです。気前のいい客が、昔はいたんですよ」
 彼は自慢げにそう言った。
 私はもう一度「とにかくレッスンを受けなさい」と忠告したけれど「レッスン受ける金がないんです」という。ホストで稼いだお金はひとり暮らしを始める時に全て使ってしまったそうだ。

 果たして彼は芸能人になれるだろうか。私だったらそのブランド財布を質に入れてでもレッスン代を捻出するけれど......。


(更新 2011/12/ 1 )


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プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

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