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ゆかたデート、3500円。

文・内藤みか

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ゆかたデート、3500円。  ついに我慢できなくなり、仲良しのバーテンダーをレンタル着物屋に強引に連れていった。
 歌舞伎町のホスト達の間で、昨夏頃から、女性のような柄の浴衣を店内で着る動きがある。花柄が派手で目立つからだという。バースデーなどのイベントでは、花魁の格好をする人がひとりふたりじゃない。すべては華麗に目立つためなのだ。

 そんな彼らのために派手めの浴衣や着物をレンタルしてくれる店が歌舞伎町にある。どうしても誰かに着せてみたかったのだ。彼は龍柄や豹柄などの着物に目をぱちくりさせ「どれが似合うかわからない」と呻くので、私は喜んで黒地にアゲハ蝶と薔薇が描かれている浴衣を選んであげた。それに女物の赤い帯を薦められた。レンタル料は激安で、着付け代込みで3500円。

「この格好で外に出るの?」

 躊躇する彼を引っ張り、新宿から浅草に移動した。ここならいるだろうと思ったが、やっぱり。浴衣で大勢がそぞろ歩いている。表情がこわばっていた彼も、次第に女性的な格好に慣れてきて、散策を楽しむようになった。

 小学生のような男の子が後ろから駆けてきて、彼の顔を覗き込むと「女じゃないよ、イケメンだった!」と母親に向かって叫んだ。赤い帯だし、後ろから見ると男か女かよくわからなかったのだろう。イケメンと叫ばれ、彼もまんざらでもなさそうだった。

 同行の私もついつい一緒に浴衣をレンタルした。彼に負けじと少し派手目な桜柄。でも悔しいけれど彼のほうが色っぽい。男性のほうが胸元も開いているし、ドキっとする。肩幅の広い彼が、女性風浴衣で仲見世を巡る姿は、なんとも悩ましい。

 江戸時代の若い役者のなかには、女物の着物を好んで着る者もいたという。女性的しぐさを身につけるためだったのではないだろうか。薔薇柄の浴衣の彼もどこかの芝居小屋から出てきた役者のように目立つ。人目を引く男を連れ歩くのは、たまらない快感だった。

 私のおごりで頼んだレストランのハンバーグを「今日、何も食べてない」と、おいしそうに頬張る彼を見つめながら、私は、遠い昔この街で同じように若い男に御馳走をしていたであろうどこかの芝居好きな奥様を想像した。きっと私と同じように、目の前の彼のお腹に負けないくらい満ち足りた気持ちでいたに違いないのだ。


(更新 2011/9/ 1 )


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プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

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