サザンオールスターズだから歌える人生の機微「愛はスローにちょっとずつ」(Song Review)
サザンオールスターズだから歌える人生の機微「愛はスローにちょっとずつ」(Song Review)

 今さら説明するまでもなく、日本中からその名を知られ世代やジャンルを問わず愛され続けている稀有なロックバンド、サザンオールスターズ(以下・サザン)。2018年にデビュー40周年を迎え、今なお精力的な活動を続けている彼らに持つイメージは、人それぞれだろう。2018年末に35年振りの出演で平成最後の大トリを務めた『NHK紅白歌合戦』を思い浮かべる人もいれば、これまた久々の出演となった大型ロックフェス【ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2018】でライブバンドの本領を発揮するサザンを目撃した若者もいるはず。長年彼らの活動を追ってきたファンであれば、デビュー当時の大学生っぽさが残る彼らの姿を思い出すかもしれない。また、「勝手にシンドバッド」に始まり、これだけヒット曲があるバンドもいない。大好きな曲も人によって様々だろう。決してサザンマニアとまではいえない筆者でも、レコード・CDは何枚も買ったしビデオ・DVDも持っていて大好きな曲はいくつもある。横浜スタジアムでのライブや数々の音楽番組でのパフォーマンスも鮮明に記憶しているし、彼らがいつテレビに出るのか知りたくて、何故かファンクラブに問い合わせの電話をかけたこともある。改めて考えてみるとサザンにまつわる思い出は枚挙に暇がない。そして、その時その場所で自分が何をしていたのかが、曲と共にはっきり思い浮かべることができる。そう考えると「ああ、自分はサザンと同じ時代を生きてきたんだな」なんて思う。もしもサザンをそれほど知らないという人でも、音楽が好きならばきっとどこかで彼らの曲を耳にしているはずだし、思い浮かべる景色や感情があるのではないだろうか。何故なら彼らは、私たちがどんな場所でどんなことをしているときでも、誰かといたときも独りぼっちのときも、幸せな時代もつらい時代も、ずっと「サザンオールスターズ」として、そばにいてくれたのだから。

 8月12日に配信開始となった新曲「愛はスローにちょっとずつ」は、そんなサザンが歩んできた40年に、聴く者それぞれの歳月を重ね合わせて聴ける楽曲だ。今作は、今年3月から行われた、6大ドームを含む全11か所で22公演のツアーの各会場で新曲として披露され話題となり、今回の配信及び、40周年記念本 『SOUTHERN ALL STARS YEARBOOK「40」』にCD封入という2形態でリリースとなっている。鍵盤の音色を中心とした演奏は、丁寧に長い月日をかけて紡がれた織物のように柔らかい。歌われている内容は決して明るくない。誰かとの別れを経て、いつまでもその人を想い続けるような切なさを感じさせるセンチメンタルな歌詞だ。だが、独り言を呟いているような桑田佳祐の歌声はとても優しく胸に響く。歌の主人公に自分を置き換えて、過去を抱きしめつつ、スローにちょっとずつ、前を向いて歩いて行こう。そんな人生の機微を歌いメッセージにできるのは、40年間活動を続けてきたサザンだからこそ。彼らにも、活動休止をしたりした時期もある。それでも、サザンは音楽を届けることを辞めずに、いつも多くの人の心に寄り添ってきた。同じ時代を生きているバンドが、今なお新しい曲を出して、新たなメッセージを届けてくれる。音楽ファンにとって、こんなに幸せなこと、素晴らしいことがあるだろうか。何度も何度も、噛みしめるように聴くごとに深く、心の奥に沁み込む「愛はスローにちょっとずつ」。これからも、サザンの音楽はいつまでも人の心に寄り添い続けて行くのだろう。

文:岡本貴之

◎リリース情報
「愛はスローにちょっとずつ」
2019/8/12 各音楽配信サイトで配信中