【agehasprings Open Lab. vol.3】田中秀典、洋楽ヒット曲を即興で日本語訳詞 玉井健二「かなりの至難の業」

Billboard JAPAN

 2018年12月29日、玉井健二が主宰し、蔦谷好位置や百田留衣、飛内将大らを擁するクリエイター集団、agehaspringsが手掛けるクリエイターズ・イベント【agehasprings Open Lab. vol.3】が青山学院アスタジオにて開催された。以下、当日のイベント・レポートとなる。
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 3回目の開催となる今回のOpen Lab.では、同イベントでは初となる“作詞”をテーマに、音楽プロデューサー兼agehasprings代表の玉井健二と作詞家・作曲家の田中秀典(agehasprings)が登壇、MCはsugar me名義でアーティスト活動をしている寺岡歩美が務めた。年末の開催にもかかわらず開場とともに長蛇の列をなし、会場は開演前に満員になり、早くも熱気に包まれていた。

 作詞家として関ジャニ∞、LiSA、三浦大知の作詞を手掛け、少女時代やSHINee、Red Velvet等、韓国アーティストの日本語訳詞も手掛ける田中秀典が初登場して実施された今回の【公開作詞ワークショップ】だが、この日、会場には「Songs(対象楽曲)」「Who?(誰が?)」「When?(いつ?)」「What?(何の?)」と書かれた4つのBOXが用意されていた。ここには今回、日本訳詞を制作するにあたってのテーマがそれぞれ入っており、BOXからくじを引いて楽曲とテーマがイベント中に決まるという仕組みだった。

 玉井は今回、テーマを決めるBOXを用意したことに対して、「今、この曲がどういう状況にあるかということをきちんと把握して、それに対しての最適解を出すのがプロの作詞家の役目なので、そういった意味でもこのBOXを用意した。」と説明した。なお、「Songs(対象楽曲)」は、当日のイベント参加者から事前のアンケートで日本語詞にしてほしい洋楽ヒット曲を募集のうえ10曲に選曲したもので、何の曲が入っているかは田中には知らされておらず、各BOXに入った内容も同様に開示されていなかった。

 そして、厳正なくじ引きにより選ばれた曲は、映画『プラダを着た悪魔』の主題歌としても馴染みの深いKTタンストールの「Suddenly I See」、そしてテーマは“女性ソロシンガーが自動車のCM曲でデビューする際のカバー曲”となった。くじを引いて楽曲およびテーマを決め、リアルタイムで日本語の訳詞作業を公開するという、作詞にまつわるワークショップでは史上初なのでは?という試みで、音楽プロデューサーとプロの作詞家の実際の制作過程を見せるという、まさにagehasprings Open Lab.ならではのプログラムだった。

 田中が実際の作詞作業に入る前に玉井は、「普段は数日掛けて行う作詞の作業をリアルタイムで、しかもお題を出されてから1時間で1コーラス仕上げるということは、作詞家として第一線で活躍する田中秀典でもかなりの至難の業であり、1コーラスできただけでも奇跡だ。」と述べた。

 プロデューサーが玉井、作詞家が田中という立場で、この原曲とテーマをもとにさらに細かい設定を決めていく2人。この“自動車のCM曲でデビューする女性ソロシンガー”という要素から、「Who?」はほぼ女優であろうという玉井の想定のもと、田中は歌詞のイメージを膨らませていく。デビュー曲であり、かつ原曲もアップテンポなナンバーであることから、自動車はスポーツ・タイプであること、また原曲が『プラダを着た悪魔』のイメージが強いことから“仕事を頑張っている女性に買って欲しい車”であり、このCMに出演している女優が歌っているパターンと的を絞っていく。ある程度、細かい設定が定まったところで作詞作業へと移行する田中。普段はポップで親しみやすいキャラクターが印象的な田中だが、作業PC画面を見る真剣な眼差しにはプロフェッショナルとしての矜持が確かに見て取れた。

 田中がリアルタイムで日本語の訳詞に挑む中で、玉井は“日本語の訳詞”の難しさについて言及。玉井は例として「Let It Go」を挙げた。この楽曲の日本語訳詞となった歌詞の“ありのままで”だが、この“ありのままで”という言葉を伝えるために、元の歌詞の「Let it go」は2回必要となる。つまり日本語というのは言葉を伝えるのにすごく時間がかかる言語で、単純に原曲の歌詞を日本語訳したもの、いわゆる直訳の歌詞で成立することはぼぼないとのことで、作った人や歌う人の目指した世界感を、“日本語”を使って違う角度から作り直すという、実にクリエイティブな作業であると述べた。

 玉井と寺岡による作詞にまつわるトークが弾む中、わずか40分ほどで1コーラスの歌詞をほぼほぼ仕上げてしまった田中。そして、ここから実際に田中が歌いながら音のハマりを確認し、歌詞の世界観を含め微調整していくという作業に入る。特に印象的だったのは、登場人物のキャラクターをさらに具体化するために、フレーズの語尾を選定していくシーン。そのフレーズの語尾が「わ」なのか「よ」なのか「の」なのか「ぜ」なのか、それだけでキャラクターの印象が全く違ってくるとのことで、語尾の1文字に至るまで細かく設定をしていくやり取りは興味深かった。

 そして、わずか1時間で1コーラスが仕上がった「Suddenly I See」の田中秀典Open Lab. ver.は、とても1時間で書いたとは思えない程の完成度で、プロフェッショナルとしての技術力、そして田中秀典の作詞家としての凄みというものを改めて示すものとなった。また玉井曰く、もともとはプロのアーティストとして歌をうたっていた田中の素晴らしさは音のハマりの良さであり、歌詞のみならず歌としても素晴らしいものになると述べた。

 作詞のプロフェッショナルである田中秀典による鮮やかな作詞術、さらには玉井健二とMC寺岡歩美(sugar me)のバラエティに富んだ語り口で、あっという間に完成した印象の強かった今回の【公開作詞ワークショップ】。しかし、この1時間の中には経験に裏打ちされた確かな技術と、確固たるメソッドが内在していることは、参加した誰もが感じたことと思う。イベント終盤には来場者の作詞・作曲にまつわる質問に対して、玉井と田中が直接回答するという充実の内容だった。

 玉井健二を筆頭に、蔦谷好位置、田中ユウスケ、田中隼人、百田留衣、飛内将大、釣俊輔など、今や日本を代表するヒットメーカーが多数在籍するagehaspringsだが、彼らが実際の現場で行っていることをエンターテインメント然としたポップな語り口で披露してくれる【agehasprings Open Lab.】は、音楽プロデュース・音楽制作という枠にとどまらず、ポップカルチャーを学べるイベントとして、また音楽の楽しさを伝えるメディアとしてその規模を拡大していくに違いない。なお、2019年の【agehasprings Open Lab.】イベントは東京開催のみならず関西エリアでも開催予定とのことだ。



撮影:樋口隆宏(TOKYO TRAIN)

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