時代を象徴し、時代を超越したアート・オブ・ノイズの電子サウンド。エスタブリッシュされた“前衛ポップ”に覚醒し、気分をクリアにする摩天楼の夜
時代を象徴し、時代を超越したアート・オブ・ノイズの電子サウンド。エスタブリッシュされた“前衛ポップ”に覚醒し、気分をクリアにする摩天楼の夜

 2017年9月2日、六本木・ビルボードライブ東京にて、アン・ダドリー、J.J.ジェクザリック、ゲイリー・ランガン=アート・オブ・ノイズの来日公演が開催された。

アート・オブ・ノイズ 来日公演写真(全6枚)

 時代の空気を鋭利に切り取ったサンプリング・サウンド。その前衛的なテクスチャーは、世紀を越えた今も、色褪せることなく斬新に響く――。1984年、トレヴァー・ホーンが設立したZTTレコーズから突如リリースされた『誰がアート・オブ・ノイズを…』。メンバーのインフォメーションが一切ない“覆面音楽集団”として登場した彼らのサウンドは、当時の新しモノ好きの関心を一身に集め、瞬く間にコンテンポラリーな表現としてミュージック・シーンのみならず、アート・ヴィレッジからも高い評価を受けてきた。その中核であるアン・ダドリー、J.J.ジェクザリック、ゲイリー・ランガン――アート・オブ・ノイズのオリジナル・メンバーが再結集し、今宵、遂にビルボードライブ東京のステージに上がった。

 今回のリブート・ライブは86年に発表されたセカンド・アルバム『イン・ヴィジブル・サイレンス』の再生・再現がメインテーマ。「ピーターガン」のヒットを生み、累計100万枚を超えるセールスを達成した同作は、グラミーの【ベスト・ロック・インストゥルメンタル】を受賞した名盤。アルバムのリリースから30年を経た今、サンプリング・マシーンや電子楽器を駆使したサウンドが、ステージでどのように奏でられるのか? 僕は期待に胸を膨らませながら会場に向かった。

 先月のトレヴァー・ホーンのライブが予想外にダイナミックなバンド・サウンドで、心地好い「裏切り」を受けた気分だったけれど、この夜のステージはヒンヤリとした音とシュールな映像が絡み合った、ドラマティックな幕開けになった。電子楽器が整然と並ぶステージに揃った3人は、サポート・メンバーと共に、目の前の鍵盤に意識を集中させ、エッジの立った音を繰り出してくる。打ち込みとサンプリング音で構築されたモダンな楽曲。前衛とポップの間を行きつ戻りつしながら、さまざまなニュアンスを表出する演奏。それらにはヨーロッパ的な美意識が滲み、商業音楽とは異なる肌ざわりが感じられる。観客も彼らの演奏に耳を傾け、目を凝らしながら彼らの音と対峙している。心地好く張り詰めた空気。それは単なる音楽ではなく、紛れもなくモダニズムの表現であり、まるでモンドリアンの作品のように優れたインテリア/アートとしても機能していた。

 まるで脳髄に打ち付けてくるような、硬質な縦ノリのマシン・ビート。フェアライトを大胆に使い残響音を削ぎ落とした音。一切の抒情性を排除した現代的なサウンドの上で、アンが奏でる繊細でインテリジェンスに富んだ旋律が舞う。エスタブリッシュされ、クラシカルに響く瞬間もある、揺らぎを伴った電子楽器の音は、どこか空虚で退廃的な色を滲ませていて、まるで欧州の斜陽を描いているかのよう。それは20世紀以降の物質文明に対する、極めて批評性に富んだ警告のように響く。

 「恐怖の時代の音」と彼らが表した曲には、惨たらしい戦いや争いの映像が組み合わされ、彼らのサウンド・メイキングの背景に“戦争”や“飢餓”といった、人類が抱えているヘヴィな問題への意識が貼り付いていることが説明されていく。そして、殺伐と響き続けるサンプリング音。聴いているうちに意識が覚醒し、夢から引き裂かれていくような醒めた感覚が身体を覆っていった90分。アンコールの「ピーターガン」で、会場はようやく躍動した。

 30年以上の時を経て再来日したダドリー、ジェクザリック、ランカンによるアート・オブ・ノイズのステージは4日にも2回予定されている。80年代という時代を象徴すると同時に、時代を超越してきた彼らの前衛音楽に遭遇する貴重なチャンス。これは、ぜひとも体験しておきたい。きっと、印象深いライブになるはずだから。

TEXT:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター
東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。秋の気配が駆け足でやってきたような、ここ数日。季節の移ろいを肌で感じられ、一抹の寂しさも漂わせる9月初旬だからこそ楽しんでみたいのが、ランブルスコ。イタリアで生産される微発泡の赤ワインは、真夏はもちろん、初秋になっても爽やかさとコクのバランスが心地好い。野菜を中心としたオードブルだけでなく、ラムなどの肉料理にも合わせやすいので、何かと出番が多い。肌に優しい季節だからこそ味わいたい人懐っこいアイテム。涼しい風が吹く休日に、芝生に寝ころびながら飲むのも至福の時! ぜひ、味わってみて。

◎公演情報
【Dudley Jeczalik Langan reboot Art of Noise's In Visible Silence】
ビルボードライブ東京
2017年9月2(土)※終了

2017年9月4日(月)
1stステージ開場17:30 開演19:00
2ndステージ開場20:45 開演21:30

詳細:http://www.billboard-live.com/