2015年12月18日時点で、外務省が発する海外安全情報のうち、最も危険度の高い退避勧告が国内全土について発令されている国は、アフリカ54カ国中、リビア、中央アフリカ共和国、南スーダン、ソマリアの4カ国だけだ。この4カ国と接した国境付近など、一部地域に退避勧告が発令されている国は10カ国。前述のナイジェリア、ブルキナファソ、マリにおいても、それぞれの国土全域に退避勧告が出ているわけではない。退避勧告が出ていなければ危険ではないということにはならないが、私の所感としては、渡航がはばかられるほどにアフリカ全域が怖い地域になってしまったとは感じていない。

 私の子どもが通う保育園のママ友は先月、国境付近に退避勧告の出ているアルジェリアに出張し、何事もなく帰国している。テロがあったばかりのマリの首都バマコにある宿泊施設からは、今月に入って、ニジェール川下りツアーを始めたとの知らせが届いた。YouTubeにアップされた川下りツアーの宣伝映像には、白人旅行者が満面の笑みで船に乗る様子が映っていた。退避勧告が出されるような地域を抱える国においても、穏やかな日常がある。

 アフリカは、54もの国を抱える大きな大陸だ。どれだけ現地を訪ねることを重ねても、すべてまとめて「アフリカは……」と語ることは難しい。しかし一方で、日本ではアフリカの国々について一般的にはなじみが薄いことから、アフリカ各地のさまざまな事象を伝えるうえで、「アフリカの」と付け加えなければならないことが多い。「バマコという街のホテルでテロが発生」「バマコはアフリカのマリという国の首都」「やっぱりアフリカは怖い」といった連想が起こりやすいことを、私はいつも歯がゆく思っている。

 2013年にブルキナファソの首都ワガドゥグを訪ねた際、西に接するマリ北部の混乱に伴う同国の現状について、現地在住のブルキナべ(ブルキナファソ人のこと)にたずねると、こんな返事が返ってきた。

「外国人は、いつもこれだ。アフリカのどこか一カ所でアクシデントが起こると、アフリカは危ないと言う。アフリカのすべてを見たわけでもないのに、アフリカは怖いと言う。(一事をもって万事とする視点には)本当に嫌な気持ちにさせられるよ」と。

 そして、日本に長く在住する、あるアフリカの大使館関係者は、よく、こんな嘆き話をこぼす。

「私がどれだけ、自分の国は安全な国だと話をしても、なかなか伝わりません。自分で現地を訪ねたうえで、やっぱりアフリカにある国は怖いところだと感じたのなら、それは仕方のないことです。でも、テレビ番組を見ただけで、アフリカは怖いというのは、違うと思います」

 アフリカ各国の実情を知るために、誰もがそのたびに現地を訪れることは難しく、私とて、一生をかけても、アフリカを隈なく訪ね渡ることは無理に等しい。

 それでもできる限り、怖いところと怖くないところが、さまざまに異なる風景が、まだら模様となってアフリカ全体を織り成していることがイメージしてもらえるような伝え方を、私はこれからも続けていきたい。

 来年も引き続き、アフリカン・メドレーをつないでまいります。皆さま、どうぞ良いお年を。

岩崎有一(いわさき・ゆういち)
1972年生まれ。大学在学中に、フランスから南アフリカまで陸路縦断の旅をした際、アフリカの多様さと懐の深さに感銘を受ける。卒業後、会社員を経てフリーランスに。2005年より武蔵大学社会学部メディア社会学科非常勤講師。

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