ケガで実戦を離れた時間を活用し、新たな武器体得に挑んだのはフェデラーも同様だ。膝のケガのため2016年の後半を治療とトレーニングにあてたフェデラーは、その間にバックハンド強化に重点的に取り組んだという。

 「ミスターパーフェクト」の異名を取るフェデラーが、かつて唯一の弱点とされたのがバックの高い位置に打たれたボール。特にリターン時には、「そこに打たれると、スライスやチップで返すしかなかった」と本人も認めている。そこでラケットからトレーニングに至るまでを見直して取り組むことで、2017年復帰後のフェデラーは弱点を克服。今では「バックでリターンウィナーを奪えるようになった」と自信を深めている。

 さらには戦術面でも、フェデラーはコーチで親友でもあるイワン・リュビチッチとともに新境地の開拓に勤しんできた。わけても明瞭なのが、ドロップショットへの解釈だ。以前のフェデラーはドロップショットを「相手の脚力に命運を委ねるギャンブル的ショット」として、好んで使いはしなかったという。だが、リュビチッチに、ポイントを決めるプロセスの一端として使うよう説得されてからは、そのショットの有効性を認識。ドロップショットを用いることで、プレーのバリエーションやポイントパターンを一層広げた。

 かくして10年以上の長きに渡りテニス界を席巻し、通算38もの対戦を重ねてきた両者。ところが不思議なことに、二人の全米オープンでの対戦はいまだない。今大会でも、第1および第2シードを与えられた両者の対戦が実現するのは、決勝戦の高みのみ。依然衰えぬ強さを誇るとはいえ、時計の針は確実に、二人に残された時間を狭める向きで進んでいく。

 果たして今度こそ、両者の初対決が実現するのか? あるいは迫りくる次世代の波が、二人を飲みこむのか?

 いずれにしても今年のニューヨークで描かれるのは、味わい深くも新しい物語だ。(文・内田暁)