「100年に一度の大変革」の時代は、従来のライバルである自動車メーカーだけでなく、グーグルやアマゾンなどのIT企業も新たにライバルとなり、すでに激しい覇権争いが繰り広げられている。今年5月の決算説明会でのスピーチで、章男社長はそうしたIT企業の動きを「われわれの数倍のスピードで、豊富な資金を背景に、新技術への積極的な投資を続けている」と指摘し、強い危機感をにじませた。
章男社長は今年1月、米ラスベガスでトヨタを「モビリティーカンパニー」へ変革することを表明した。自動車をつくるだけではなく、自動車と様々なデバイスや情報をつなぎ、新たなサービスを提供するプラットフォーム企業になるという決意表明だった。
81年前に自動織機の会社から自動車会社へと変わろうとしたトヨタが新しく生まれ変わるには、喜一郎の時代に匹敵する「蛮勇」が必要なのかもしれない。それには1を10や100にする手堅く優秀な人材だけでは十分ではない。喜一郎やその当時の仲間のように0から1をつくり上げるようなベンチャースピリッツを持った人材こそが必要なのだ。
喜一郎の米国自動車殿堂入りを祝う記念式典は、今のトヨタの強烈な危機感の表れでもあった。(Gemba Lab代表 安井孝之)