数年前、自殺した広告代理店勤務の女性に対して、「それぐらいの残業で過労死するのは情けない」なんていう内容をネットにコメントして炎上した大学教授がいました。広告代理店の若手女性社員と大学教授では、受ける同調圧力が桁違いなのです。
サラリーマンへの同調圧力は、服装はもちろんですが、同じ時間を過ごすことを求めます。仕事が終わっても、上司がいるから帰れないのは、会社という組織が同じ時間、空間を共有することを求めるからです。
それに比べて、大学教授やフォトグラファーは、自分で決める時間、予定、服装の幅が大きいのです。もし、父親が銀行員とか教師なら、すぐに、日本の同調圧力の怖さを知って、娘さんに「しょうがないね」とアドバイスするでしょう。
いえ、僕もそうしたらと言うのではありません。
僕がえんえんと語っているのは、まず「敵を知る」ことが大切だからです。自分が何と戦っているのかを知ることは一番重要なことです。
僕は「同調圧力の強さ」が大嫌いでずっと問題にしてきました。演劇の作品にもしたし、エッセーにも書いたし、小説にもしました。
劇団を35年ぐらいやっていますが「どうしたら『同調圧力』を低く押さえられるか」という試行錯誤を毎日しています。
それでも、「なぜ日本はこんなに『同調圧力』が強く、『自尊意識』が低いのか」は完全には解明できません。僕は今も考え続けています。
ただ、どんなふうに「同調圧力」が強く、どんなふうに「自尊意識」が低いのかはずいぶん分かってきました。
つまり、敵の様子が分かってきたので、戦い方を考え出せるようになりました。依然として、なぜこんな敵が生まれ、こんなにも凶暴なのか(なんか、ファンタジー物語の悪魔誕生の由来みたいですが)はよく分かりませんが、戦い方は分かってきたのです。
言わずもがなですが、「同調圧力の強さ」がプラスに出ることだってあります。
東日本大震災の後、略奪も起こらず、コンビニの商品が整然と並び、道路が一週間で復活して世界から奇跡だと讃えられるのは、私達日本人が簡単にひとつになれるからです。ですから、問題は、「同調圧力」ではなく、その強さと理不尽さなのです。