おしゃれな娘さんは、「着たい服を自由に着る」という喜びを味わってきた。つまり、さきに美味しい寿司をたくさん食べたのです。それはとても素晴らしいことです。娘さんの将来がとても楽しみです。

 が、周りに本物の寿司を食べたことのない人達だけが集まりました。そして、ちらっと娘さんの姿を見て「うらやましい」と思いました。本物の寿司を食べている人を見て「美味しそう」と思ったのと同じですね。

 でも、自分は本物の寿司を食べられないから、悔しいと思います。憎い。許せないとなります。わりと普通の思考です。

 娘さんは美味しい寿司を食べた。その素晴らしい経験と喜びをねじ伏せることはないのです。学校ではない自分の時間に、おしゃれを存分に楽しみながら(または学校でもワンポイントで戦略的におしゃれを楽しみながら)、この国とうまくつきあうのです。やがて、フォトグラファーのお父さんのように、自分の意見を持ってちゃんと戦える時期も来るでしょう。

 時々、娘さんと美味しい寿司を食べながら、戦いの状況を見守ってあげて下さい。

 小さな戦いが、やがて大ボスを変える日が来ると僕は信じています。

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鴻上尚史

鴻上尚史

鴻上尚史(こうかみ・しょうじ)/作家・演出家。1958年、愛媛県生まれ。早稲田大学卒。在学中に劇団「第三舞台」を旗揚げ。94年「スナフキンの手紙」で岸田國士戯曲賞受賞、2010年「グローブ・ジャングル」で読売文学賞戯曲賞。現在は、「KOKAMI@network」と「虚構の劇団」を中心に脚本、演出を手掛ける。近著に『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる 』(岩波ジュニア新書)、『ドン・キホーテ走る』(論創社)、また本連載を書籍にした『鴻上尚史のほがらか人生相談~息苦しい「世間」を楽に生きる処方箋』がある。Twitter(@KOKAMIShoji)も随時更新中

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