現場を経験したことのある人なら、誰もがうなずくような「あるある」が随所に散りばめられているのだ。その中で映画を作ることの「苦労」と「喜び」が描かれているため、仕事としてそこに携わる人たちにはストレートに刺さる内容になっている。

 それだけではない。映画作りに携わったことがない一般人が見ても、この映画は十分面白いはずだ。なぜなら、現場で味わえる物作りの醍醐味のようなものを、この映画を通して疑似体験できるようなつくりになっているからだ。映画作りはあらゆる意味で大変な作業である。でも、大変だからこそ、そこに大きなやりがいがある。この映画全体が見た人に対してそういうメッセージを伝えるものとなっている。

 ただ、映画を撮ること自体がテーマになっているとはいえ、この映画そのものの面白さの本質はそこにあるわけではない。たまたま「映画の撮影現場」という設定を扱っているだけで、映画全体の仕上がりとしては王道の娯楽作品という感じである。

「ネタバレ厳禁」「映画の構造にちょっとした仕掛けがある」などという前評判を聞いていると、いかにも精密なつくりの玄人受けする映画なのかという感じがするかもしれないが、決してそんなことはない。業界内外を問わずSNSなどで大絶賛の声が多いことからも分かるように、誰でも楽しめる間口の広い作品である。

 誤解を恐れずに一言で言うなら、この映画のテーマは「映画はすごい」ということだ。「映画はすごい」というテーマの低予算映画が多くの人々を感動させ、奇跡的な大ヒットにつながった。何よりもこの事実こそが「映画はすごい」というメッセージを雄弁に物語っている。

 エンタメ業界では「面白いものが売れるとは限らない」などとまことしやかに言われることがある。しかし、現実には「面白いものがその面白さによって売れる」という奇跡もしばしば起こる。

 映画の中で描かれた美しい理想の物語が、映画の外で「映画自体の大ヒット」というこの上ない形で現実のものとなったのだから、驚くほかはない。現時点で話題になっているとはいえ、上映館が少なかったため、まだ見ていない人も多いだろう。『カメラを止めるな!』の快進撃は始まったばかりだ。この奇跡はいまだ進行中である。(ラリー遠田)

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