発行部数約6万部のカリフォルニア州の地元紙デイリーブリーズで、教育担当記者として働き、2015年のピュリッツアー賞ローカル報道部門を受賞したロブ・クズニアさんは、「ローカル新聞は、地元で起こる事件を把握するハブ的な存在だけに、その記事によって、一定の数のエキセントリックな人間を引き寄せてしまう磁石のような存在でもあると思う」と語る。
クズニア氏がピュリッツアーを取ったネタである、地元教育長の不正を調査していた際は、「一応安全のために、教育委員会の建物の駐車場に自分の車を駐めないように、注意していた」と言う。
さらに、犯罪事件担当記者の同僚が、何者かにオンライン上で自宅の住所をさらされたこともあるという。新聞社はすぐ警察に知らせ、その住所を削除させる処置を取ったそうだ。
キャピタル・ガゼット紙で容疑者ラモスの記事を書いたコラムニストや当時の編集長兼発行人は、6月末の襲撃時にはすでに退職していた。
この元編集長は、ラモスがいつか新聞社に襲撃をかけるのではないかと恐れていたと語っている。新聞社の弁護士に相談し、警察に連絡してもいた。だが、ラモスの行動を規制するような具体的な対策は取らずにいた。
「彼の行動を警察監視の下で強く規制すれば、下手に相手を刺激して逆上されると思ったのだろう」(クズニア氏)。
米国では新聞業界が斜陽産業と言われて久しい。
人員削減、給与カットを迫られる地方紙。それでも発行部数、数千から数万部の地方紙が絶滅せずにしぶとく生き残っているのは、大手紙では決して読めない地元密着記事や写真を掲載しているからだ。
アナポリス市の詳細な記事は、ワシントンポストには載らない。だからこそ、地域住民からの需要がある。
「自分はコミュニティの目と耳の役割だから。逆恨みされても記事を書き続ける」。
筆者の同僚だったミシガンの裁判担当記者はそう語っていた。
脅迫電話だけでなく、彼の自宅には、地元刑務所内の受刑者から、人生相談の電話もよくかかってきていた。(在米ジャーナリスト・長野美穂)
●プロフィール
長野美穂(ながの・みほ)
東京の新聞社系出版社で雑誌編集記者として働いた後、渡米。ミシガン州の地元米新聞社で働き、中絶問題の記事でミシガン・プレス・アソシエーションのフィーチャー記事賞を受賞。ロサンゼルスの米新聞社での記者を経て、フリーランスジャーナリストとして活動中。