殺人、窃盗、幼児虐待、ストーキング、汚職、強姦、ドメスティック・バイオレンス、ドラッグがらみなど、さまざまな地元の犯罪が裁判所で日々裁かれ、それを実名報道するのも記者の仕事だ。
アメリカの新聞社では、全ての記事がバイライン制度(署名制)のため、誰がどの記事を書いたのか一目瞭然だ。さらに地元紙では、記者の顔写真やメールアドレス、電話番号も当たり前のように紙面やウェブ版に載っている。
ミシガンの地方紙で、私の同僚だった裁判所・警察担当の男性記者は、「あんな記事を書きやがって、覚えてろよ!」と被告の家族や友人から、街のコインランドリーで洗濯中にいきなり怒鳴られたり、バーで見知らぬ客に「帰り道は気をつけるんだな」と脅されたりしていた。
自宅への脅迫電話は日常茶飯事で、彼は自分の家の電話番号を地元のディレクトリーや電話帳に載せないような処置を取っていた。
「自分の娘たちに脅迫電話の内容を聞かせたくないから」と。
特に人口が少ないスモールタウンでは、住民の多くが顔見知りだ。新聞に実名で犯罪記事が載れば、それが街や職場ですぐ話題になる。犯罪数が圧倒的に多い大都市と比べ、小さな街では個人の「悪評」の伝達速度が圧倒的に速く、その影響力は計り知れない。
犯罪でなくても、地元民にとって「都合の悪い記事」を書かねばならない記者たちは、常に読者の「恨み」にさらされながら仕事をしていると言ってもいい。
例えば、地元高校の男子バスケ部のスター選手のひとりが、飲酒運転の疑いで裁判所に出頭を命じられたにもかかわらず、大会選抜メンバーからはずされず、州の準決勝の試合に出ていた事実を記事にすれば、地元民から「晴れの準決勝を台無しにするような記事を書くな」と、非難の声が新聞社や記者に殺到するといった具合だ。
筆者も、ある記事を書いた翌日に、その記事の取材対象者からいきなりニューズルームの席まで怒鳴り込まれたことがある。
多くの地方紙の社屋は、たいてい街の中心部にあり、そこに多数の地域住民が出入りしている。
全国紙のように、入り口に警備員がいて、IDを厳しくチェックするような体制はほとんどない。