梅雨の季節はうっとうしいものだが、雨に映える花・アジサイが群生する場所ならば雨模様であっても見に行きたいと思う方も多いことだろう。近頃では紫だけではなく、さまざまな色や形のアジサイも登場して、華やかさはひとしおだ。
●アジサイの花はどこ?
ところで、われわれがアジサイの花弁だと思っている場所は、実はガク(装飾花)で花はその奥にある小さな濃い色の部分である。つまりまん丸く見えるほとんどの部分は花ではなく、ガクなのだ。
今では季節の花としてお店にも並ぶほど人気となったアジサイは、実は長く観賞用の花として持ち上げられることのなかった花である。もともとは日本に自生するガクアジサイが原種で、これがヨーロッパにわたり品種改良され大正時代に日本へ渡ってきたものが西洋アジサイとひとくくりに呼ばれている。現在、われわれが一番目にするボールのようにまんまるい種が、主にそれである。
●逆輸入されたアジサイが人気に
「アジサイ寺」という言葉が浸透するほど、6月にはアジサイ観賞で賑わうお寺が全国各地に広がっている。これは昔からお寺にアジサイは欠かせない花だったことが大きな理由だったと思われる。
手がかからず、放っておいても勝手に育ってくれるため誰にでも育てられるアジサイは、品種改良や観賞用の草木の栽培など、園芸文化が花開いた江戸の職人たちには、腕の見せどころがなくあまり人気がなかったようだ。
こんなアジサイがお寺で重宝されたのは、季節の変わり目で亡くなる人の多い6月に、仏花として簡単に調達できたためだ。群生するためいくつ切り取っても無くなることもないし、手入れをあまりしなくても境内が荒れることもない。加えて「四葩(よひら/花弁が4枚あること)」の別名をもつアジサイが、「死(4)」をイメージすることも理由のひとつにあった。
こんな背景を持つためか、日本でアジサイが観賞用として人気となるのは、昭和時代になってからである。もちろん奈良時代からアジサイは万葉集などでも詠まれてはいたが、取り上げられ方は他の花たちと比較にならないほど少ないのだ。