「真っすぐは、ほとんどないです。動いていましたね。メジャーリーガーみたいです」
22歳の外野手・上林誠知が脱帽した、15歳年上のベテランのピッチングぶり。その真骨頂は3回に迎えた2度目の対決にあった。
136キロ、カットボールはボール。
132キロ、カットボールもボール。
133キロ、カットボールはストライク。
140キロ、ストレートをファウル。
そして、5球目は125キロのスライダー。上林のバットは空を切り、三振に終わった。
カットボールを軸としたその投球に、かつての豪快さはない。それでも、今月に入って4戦連発の離れ業を見せた若武者に、自分のスイングをさせない。それが、今の松坂大輔だ。
メジャーの投手に対して、よく「球を動かす」という表現が使われる。松坂のような右投手なら、右打者の外角、左打者の内角へ小さく曲がり、打つ瞬間にバットの芯を外す「カットボール」。その逆が「ツーシーム」。打者の手元で動くその球は、日本風にいえば「まっスラ」と「シュート」だ。
これに対し、日本のオーソドックスな「ストレート」といえば「フォーシーム」。きれいなスピンがかかり、伸びていくような軌道。スピードが売りの剛球派投手なら「浮き上がる」と呼ばれるイメージだ。
その“素直な軌道”とは対照的ともいえる、メジャー流の『動く球』。松坂が「今、一番、頼りになる球」とまで表現するのが、このカットボールなのだ。130キロ台後半のスピード表示は、ほぼこの球といっていい。力で抑え込めない現状で、真っ向勝負の“かつての自分”の感覚で攻めたところで、全盛期より10キロも遅いボールでは、まず勝負にならない。
松坂には、それが分かっている。
37歳の今だからこそ、球を動かしていく。その「進化」した投球が、ピンチでも輝きを増した。2回、セカンド・高橋周平の野選で1点を先制され、さらに1死満塁。ここで3番・中村晃に、松坂は硬軟織り交ぜた「術」を見せた。
125キロ、チェンジアップがボールになる。
139キロ、カットボールで空振りを奪う。
124キロ、チェンジアップがボールに。
138キロ、ストレートでストライクを取った。
カウント2―2からの5球目。ストレートを待つのか。しかし、芯を外される可能性はある。カットを待つ。するとストレートに遅れてしまう。中村晃の技術なら、ストレートを待ちながら、カットに泳がされてもファウルにして、狙い球が来るまで我慢はできるだろう。その“迷い”を生じさせた中で、松坂が投じたのは137キロのストレートだった。逃げずに、真っ向勝負。スイングが遅れた中村のバットは、空を切った。