中日・松坂大輔 (c)朝日新聞社
中日・松坂大輔 (c)朝日新聞社
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 松坂大輔といえば、やはり「剛」のイメージだ。

 150キロを超えるストレートで、強打者たちのバットに空を切らせ、力でねじ伏せていく。その豪快さが松坂大輔を「平成の怪物」たらしめた重要なファクターでもあった。

 しかし、今は違う。

 右肘、右肩と、2度メスを入れた。そして、37歳という年齢。それらの要素は「衰え」という言葉でひとくくりにされ、すべてはマイナスに捕らえられる。松坂にも、その影響は間違いなく忍び寄っている。球速はもう、これ以上伸びることはないだろう。

 6月8日、ナゴヤドームでの対ソフトバンク戦。

 メジャーから日本に復帰した2015年から、昨季までの3年間を過ごした古巣。しかし、1軍登板は2016年の1試合だけ。相次ぐ故障渦で苦闘のリハビリ生活が長く続いた。3年12億円といわれた大型契約への期待に応えられないままの退団。コーチ契約でリハビリを続け、実戦復帰のメドが立てば選手として再びプレーするというソフトバンク側の“配慮のオファー”を断り、現役続行にあくまでこだわった。

 因縁、感謝、そして意地。古巣への意識を問われ「あったと思います」と、正直な胸の内を吐露した。

「いつも通りにいかないと。そう思っている時点で、意識しているんでしょうね」

 長いキャリアを積んできた松坂にも、やはり、いつになく期するものがあったようだ。

 ただ、だからといって、妙な「力み」につながらない。それが、キャリアを積んできた怪物の“年の功”だろう。最速は142キロだった。投じた104球のうち、140キロを超えたのも15球しかなかった。

 それでも、ソフトバンク打線を5回1失点に抑えた。5イニングのうち、三者凡退は5回だけ。残る4イニングは、いずれも得点圏に走者を背負った。それでも最小失点で試合をまとめてしまう。プロ20年の長きにわたるキャリアからにじみ出た“エキス”が、存分に詰め込まれているようなパフォーマンスだった。

 そう、力だけではない。松坂は勝負どころを踏まえ、そこに知力と体力のすべてを注ぎ込み、相手の攻撃を断った。

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真っすぐは、ほとんどない…