当時のたむらはまだメディア露出もほとんどなく、売れっ子とは言えない状況。今のように関西ならば誰もが知っている顔になったならば、著名人としての馬力というか、相手にも「ま、たむらさんが言うんやったら…」という空気が生まれることもあるかもしれないが、当時の知名度からしたら、単に通りすがりのアンチャンが声をかけたに過ぎない。しかし、それでも、なんとも言えないスケール感というか、堂々とした振る舞いにヤンキーも言葉にできない迫力を感じたのか、ピタッとケンカをやめた。そして、たむらは事も無げに商店街に戻り、次の店へと向かって行く。こちらとしては先ほどまでの酔いが一気にさめるような数分間でもあったが、今から思うと、現在のたむらの姿が透けて見える体験でもあった。
また、芸人以外もう一つの顔として知られるのが「炭火焼肉たむら」のオーナーとしての顔。2006年、当時の妻の母親が経営していた店を引き継ぐ形でオープンした。同期のケンドーコバヤシらから「上カルビと並カルビの違いは皿の色だけ」などと愛あるイジリを連発されたことも手伝い、話題の店に。
今でも後輩芸人から「情報番組で“流行りのニュースイーツ”などのVTRを見ていても、たむらさんだけ店のエリアと席数から客単価を計算している。タレントではなく実業家のVTRの見方」などとイジられてもいるが、たむらの店舗や「炭火焼肉たむら」が出店しているイベント会場などに行くと見覚えのある顔がスタッフとして働いている。現在、吉本新喜劇座長として活躍するすっちーの元相方で、お笑いコンビ「ビッキーズ」のメンバーだった木部信彦氏。お笑いコンビ「モストデンジャラス」として活動していたミスターXこと矢田周平氏らを芸人引退後のセカンドキャリアとして雇用している。
あんまり良いことばかりを綴ると、たむらへの遠回しな営業妨害になってしまうのかもしれないが、上記のことはまぎれもない事実。
「『炭火焼肉たむら』で一番おいしいのはウインナー」といった芸人仲間からのイジリも定番になっているが、たむらけんじ個人の何よりの看板商品は“厚切りの情(じょう)”。そう思えてならない。(芸能記者・中西正男)