1年越しの「モリカケ問題」でうんざり感の漂う国会。なかったはずの財務省文書や交渉記録が次々明かされ「憲法改正どころじゃない!」と与党から冷めた声が聞かれる一方、リベラルの一部からは独自の「立憲的改憲」なる案が検討されている。しかし、憲法学者からは疑問の声が挙がっている。

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■自衛隊のできることを憲法に書く「限定列挙」はあぶない

「九条を変えるべきだ、と主張する人たちは、九条を実定法(ふつうの法律)と同じように考えているところがあります。

 じつは、自衛隊のできることを『ポジティヴリスト』として、一つ一つ憲法に書き込もう、そのほうが明確になる、と主張する政治家やグループがいます。代表的なのが、立憲民主党の山尾志桜里さんです」

 そう解説するのは憲法学の重鎮、長谷部恭男・早稲田大学教授だ。長谷部教授といえば、2015年、自民・公明両党推薦の参考人として呼ばれた衆議院憲法審査会で、「集団的自衛権の行使は憲法違反」と発言し、自民党に泡を食わせた人物として知られる。近著『憲法の良識』(朝日新書)でも持論を展開している。

「九条の規定を明確にすれば安全だ、という考えは、じつは危険をともなうと私は思います。このような改正を提案した人は、本来であれば自衛隊法などのふつうの法律に書くべきことを、憲法典の中に一つ一つ書くことについて、いわゆる『限定列挙』のつもりで提案しているのかもしれません」

 限定列挙とは、やるべきことを限定的にとどめることで、自衛隊の活動範囲が無制限に広がることに釘を刺そうというものだが、いったんそういう条文ができてしまうと、政府の側としては、拡大して理解しようとするものだと長谷部教授は懸念する。

「『これは単なる例示です。これらと並ぶような緊急性と必要性のある任務があれば、自衛隊はそれもできるはずです』。私が政府の役人だったら、おそらくそのような解釈をします。というのも、自衛隊の任務を現在、法律でリスト化しているのは、法律であれば憲法とちがって、国会審議のみで柔軟に判断し、変更を加えることもできるからです。

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