制作費が限られているため、名のあるタレントを起用することができない、というのがテレビ東京の弱点である。しかし、テレビ東京には伝統的にその弱点を補うための番組作りのノウハウがある。

 その1つは「足で稼ぐ」ということ。キャスティングや美術にお金をかけられない分、リサーチや取材にじっくり時間をかけることで、視聴者の興味を引くという方法を実践しているのだ。

 例えば、『YOUは何しに日本へ?』では、日本の空港に降り立った外国人に手当たり次第に取材を行い、日本での生活ぶりをレポートする。また、『家、ついて行ってイイですか?』は、終電の時間が過ぎた繁華街で一般人をつかまえて、タクシー代を出す代わりにその人の家に訪問させてもらう。いずれも、ひたすら数多くの人に声をかけることでその中から興味深い取材対象を見つける、という地道な制作方法で根強い人気の番組となっている。

 また、一般人にスポットを当てるのもテレビ東京の得意とするやり方だ。『TVチャンピオン』やその派生番組である『元祖!大食い王決定戦』では、特定の分野に関する知識が豊富だったり、大食いが得意だったりする一般人を集めて、競争させることで話題になった。

 テレビ東京には確かに予算がない。しかし、それを補って余りあるほどのアイデアがある。現在ヒットしている『池の水ぜんぶ抜く大作戦』も、キャスティングに頼らないテレビ東京だからこそ生まれた番組だと言えるだろう。

 そんな中で、大物タレントの間でもテレビ東京を再評価するような動きが出てきているのではないかと思う。例えば、NHKも民放に比べると出演料が安いと言われているのだが、NHKに出たいと思っているタレントは多い。なぜなら、NHKは局としてのイメージが良く、全国どの地域でも見られるというメリットもあるからだ。視聴者からの評判がいいテレビ東京は、いまや多くのタレントにとって「出てみたい局」になりつつあるのではないか。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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