日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、夏にかけて気をつけたい「過呼吸」について、NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。
【写真】女子高校生7人が救急搬送されたときの新橋駅前SL広場の写真はこちら
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先日、JR新橋駅前SL広場で、遠足で都内に来ていた横浜の女子高校生7人が過呼吸の症状を訴え、救急搬送となった出来事がありました。集合時間に遅れてしまった生徒を教員が注意したところ、遅れてきた生徒を含む7人が「過換気症候群」を引き起こし、次々に倒れてしまったのです。
私も、救急当直や救急外来をしているときに「過換気症候群」の症例を経験したことがあります。ある20代女性は、同僚や先輩と飲酒をしていた時に急に体調不良を訴え「過換気症候群」として救急車で運ばれて来ました。また、交通事故で救急搬送となった患者さんの母親や姉妹が、救急外来の待合室で過呼吸状態になり、「過換気症候群」と診断したケースもありました。医学生のとき、救急科の当直実習の夜に搬送されてきた過呼吸状態の女性を見た時の衝撃は今でも忘れられません。
過換気症候群は、救急の現場では頻繁に遭遇する病態の一つです。集団で発症し、緊急搬送されたという報道も、実は今回が初めてではありません。そんな「過換気症候群」についてわかりやすく説明したいと思います。
■過換気症候群の約95%が恐怖の症状を訴えた報告も
過換気症候群とは、「呼吸機能は十分に保たれているにも関わらず、何らかの原因により過呼吸の状態になり、血液の酸と塩基のバランスが崩れ様々な症状を来たす状態」です。息を過剰に吸ったり吐いたりすると、血液中の二酸血化炭素の濃度が減少し、酸素の濃度が上昇します。すると、呼吸を調整している呼吸中枢が、「酸素は十分あるからと呼吸しなくていいよ」というシグナルを発し呼吸を抑制させてしまい、「呼吸ができない、苦しい」と感じ、さらなる呼吸を生み出すのです。これが、過換気症候群のメカニズムです。