厳戒態勢を続けるのは、ヒアリが人間に危害を与えるだけではなく、社会的なインフラへのダメージも懸念されているからだ。ヒアリは、公園や河川敷にアリ塚をつくるため、巣が発見されるとその場所は使用禁止にせざるをえない。夏場だと、花火大会や夏祭りが開かれる場所でアリ塚が発見されると、開催中止に追い込まるだろう。また、ヒアリは通信ケーブルや電気設備を破壊する習性があり、全米で700億円以上の被害があるという。
生殖能力の高さも警戒されている。ヒアリの女王アリは、1日で2千個の卵を産む能力がある。さらに、巣(コロニー)が成熟すると、次の生息地域を求めて生殖能力のある女王アリとオスアリが、羽を使って一緒に飛び立つ「結婚飛行」をする。移動範囲は2キロ程度とされるが、風に乗ってもっと遠くに移動することもある。攻撃力が強いので、日本の在来種が駆逐される危険もある。
一方、市街地や住宅地で見つかっていないことは、不幸中の幸いだった。
「昨年、ヒアリについての問い合わせは電話で数千件ありましたが、実際に確認されたのは1件で、それもやはり輸入コンテナの中で発見されたものでした。現在の段階では、港湾エリア以外でヒアリを必要以上に恐れることはありません」(同)
もちろん、冬を生き延びたヒアリが、夏が近づくにつれ出現する可能性もある。
「日本では、関東から西の地方だと、ヒアリが定着できる可能性があると言われています。特に、都会だと自動販売機の中のような暖かい場所もあり、そういった場所だと冬を越せるかもしれません。ヒアリは赤茶色なので、黒いアリは無視して大丈夫ですが、赤茶色の怪しいアリがいた場合は、殺虫スプレーなどで対処してください」(同)
環境省では、ヒアリ相談ダイヤル(0570-046-110)を設けている。万が一、ヒアリのようなアリを見つけたら連絡を。特に、アリ塚状の巣を発見した場合は、自分自身で対処せず、すぐに専門機関に相談してほしい。(AERA dot.編集部・西岡千史)