今回の文書改ざんでも、部下からいろいろな悪知恵が出された可能性がある。ただし、それらは、全てがうまく行ったときにだけ、褒められることであって、失敗に終われば、ただの「猿知恵」で終わるだけでなく、その責任を問われることになる。

 また、これは役所に限らないことだが、組織防衛と個人の責任に関する厳然とした掟がある。仮にある時点で、その組織の誰もが避けられない選択であると認めた行為であっても、一つ悪事を働けば、その後は、それを行った現場の人間が第一の責任者にされることだ。ひとたび「組織のために」悪事を働けば、その後は、「自分の身を守るために」悪事を重ねる「負のスパイラル」に陥ることが不可避だ。その行為は組織のためという大義名分をかざしながら、同時に自己保身目的で行われるという二重の性格を持つ。

 そして、組織は、都合が悪くなれば、「自己保身のために行った」という名目で、現場の人間を切りに来る。しかし、多くの場合、現場の人間はそれに気づくのが遅れる。気づいたときは、自分だけが悪者になっているのだ。

 さらに、役所独特の上下関係のしきたりがある。それは、キャリア(国家公務員1種試験合格者)とノンキャリア(2種と3種試験合格者)、本省採用と地方採用、年次・役職の順位という階層社会の存在だ。

 上に対して忠誠を尽くせば、それは必ず人事上の待遇で見返りが与えられるのは、他の組織と同じだが、役所では、特に本省のキャリアに対して命がけの忠誠を尽くすこと、いわゆる泥をかぶる覚悟を示せば、財務局採用(財務省本省で採用されるのではなく、地方支部である地方財務局独自で採用され、基本的にその財務局の中で昇進していく役人)のノンキャリ職員でも退職後の天下りを含めてかなりの厚遇を受けられる。本省採用のノンキャリア職員も同様だ。

 なお、地方の財務局のトップには本省からキャリア官僚が派遣されるが、特に、近畿財務局は地方財務局の中では最高ランクにあり、悪くても局長確実と言われる人が来る。近畿財務局の職員としては、下にも置かぬ扱いをしなければならないし、逆にその局長にうまく取り入ることができれば、人事上の厚遇が期待できる。
また、上下関係と言えば、年功序列の意識が他の民間企業などよりもはるかに強いのも役所の特色だ。「1年違えば虫けら同然」という言葉がそれを物語っている。管理職と課長補佐以下では雲泥の差だ。

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トカゲの尻尾切りと引き換えに勲章をもらう?