初瀬礼(はつせ れい)/1966年長野県市生まれ。2013年日本エンタメ小説大賞・優秀賞となったサスペンス小説『血讐』(リンダパブリッシャーズ)が処女作。2016年に出版されたパンデミックをテーマとした小説『シスト』(新潮社)に次ぎ、今回の『呪術』が3作目となる。松本深志高校、上智大学ロシア語学科卒。フジテレビジョン勤務。入社以来、20年余りにわたり報道畑を歩み、社会部記者やモスクワ特派員、ディレクターを経験
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 アフリカで突然のテロに巻き込まれるも、なんとか難を逃れる麻衣。その途中で救うことになったのは、「呪術師」に追われる一人の少女、ケイコだった。麻衣はケイコを連れて日本に帰るも、そこで待ち受けていたのは、マフィアや公安が絡んだ壮大な追跡劇。二人は、謎に満ちた「呪い」の魔の手から、逃げ切ることができるのか――。そんな世界を股に掛けた大胆なサスペンス小説、『呪術』。女優で作家の中江有里さんも「スケール感抜群」と太鼓判を押したこの物語を著したのは、テレビ局勤務の傍ら小説を執筆するサラリーマン作家の初瀬礼氏だ。

「もともと、トム・クランシーなどのスパイ小説や、『24』『ホームランド』といった国際謀略もののドラマなどのダイナミックな物語が好き」と語る初瀬氏がこの物語の着想を得たのは、3年ほど前のこと。

「バラエティー番組で、“アルビノ狩り”について取り上げられているのをたまたま目にしたんです。理不尽な迷信が今でも続いていることに衝撃を受けましたし、その社会的背景を調べ始めたら興味が湧いてきて、これを小説にしたいなと」

 カーチェイスや銃撃戦など緊迫のアクションシーンも登場するが、小説の背景となっているのは現実世界の問題だ。だからこそ、説得力が宿る。たとえば、アフリカ大陸でいまだ息づく呪術の風習。医学や科学が発達した現代でも、民間療法的な「まじない」の文化は消えていない。同時に、「のろい」の呪術も歴然と存在する。さらに、そのためにアルビノの人たちを狙う「アルビノ狩り」も……。とはいえ、現実の問題をフィクションに落とし込むのは容易なことではない。

「エンターテインメント小説ではありますが、いわゆるマイノリティーの人たちや、センシティブな問題も扱うにあたって、誤解を招かないよう細心の注意を払いました。たとえばアルビノの方に直接コンタクトをとって、これまでどんな体験をされてきたかを伺ったり、世間から一方的に押し付けられがちなイメージと、実際は何が違うかを探ったり」

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