■投薬治療の限界でも、前を向いて生きられる

 自らの病気を歌った「パーキンソンブルー」を作ろうと思ったのは、偶然の巡り合わせからだった。

 全国パーキンソン病友の会の大阪支部が、薬が切れて動けなくなったときの「SOSサイン」として、ブルーのバンダナを作ろうと計画した。それを同会の会長である中村博氏が「パーキンソンブルー」と命名したのだ。

「その言葉を聞いて、なんて美しく哀しみをたたえた言葉だろうと感動しました」(信子さん)

 横断歩道で「早くしろ」とクラクションを鳴らされる患者、終点でも電車から降りられない患者、けげんな目で見る周囲の人、その悲しさ、せつなさ。それを「パーキンソンブルー」という言葉がすべて伝えてくれるような気がしたと信子さんは言う。

「歌は、心のままに全力で作っただけですが、パーキンソン病の人もそうでない人も、同じように共感の気持ちをもってもらえたらうれしいです」(郁典さん)

 現在、郁典さんは1日に8回薬を飲んでいる。それでも歌の歌詞のように動けなくなる時間帯があるという。最新曲の「チカタクネ」は、電動ベッドのうえでパソコンを抱えながら作り上げた。

 投薬治療はそろそろ限界だが、郁典さん本人は「深刻な悩みとは感じていないんです。不自由には慣れてしまいました」と笑う。

 パーキンソン病は進行性の病気だ。1分1秒と過ぎる時間は、郁典さんの動ける時間をも持ち去っていく。だからこそ1分1秒を惜しんで曲を作り、一人でも多くの人に届くことを祈って演奏する。

「病気なんですから、あまり無理しては困ります」と信子さんは困り顔だが、二人三脚で走り続ける覚悟はできている。

「大切なことは、音楽を通じて『いま』という時を充実させること。幸せの量は、人生の長さではないと思っていますから」(郁典さん)

 過ぎ行く時間を音楽で引き留めながら、二人は今日も歌っている。

げんきなこ/2013年結成の音楽ユニット。作詞・作曲・ボーカルは「きなこ」こと河中信子さん、編曲と演奏は「元気」こと河中郁典さんがパソコンでおこなう。ファーストアルバム『歌をうたって春にいる』が発売中。「パーキンソンブルー」はインターネットでも視聴可能

(取材・文/神素子)