「人は必ず死ぬ」ことを意識すべきなのは、医者だけじゃない。日本は高齢社会なんだから、国民の一人ひとりが普段から死というものを、きちんと見つめなければいけないと思う。

 死を忌み嫌う風潮というのは世界的にあると思うけれど、日本は特に戦後教育の中で、死を口にすることを異常なまでに嫌うようになった。これはもしかしたら、若者たちが太平洋戦争中「お国のために命を捧げることは美しいことだ」という教育を受け、特攻などで大勢死んでいったことのトラウマなのかもしれないね。大人たちが教育や家庭の場で、若い人たちに死を語ることを一切封印してしまった。お国のために命を捧げよ=死ね、ということと、死について語ることは、全く別なのに。

 最近は特に核家族化が進んで、家で人が死んでいく過程を見なくなった。また、そういう機会があってもあえて見せない、という雰囲気がある。でも僕は、若者はもちろん子どもたちにも、ぜひ見せてあげてほしいと思う。そういう時こそ、人はみんな必ず死んじゃうんだよ、お父さんもお母さんも、いつかはあなた自身もね、という会話をする良い機会だし、最期の迎え方やお墓の話をするきっかけにもなるでしょ。

 子どもがショックを受けるという意見もあるけど、子どもはそんなにヤワじゃないし、見せなければいいということでもない。ある意味、性の問題と同じ。なまじ隠すから、色々な問題が起きてくる。まして現代は、ゲームなどバーチャルの世界で簡単に人が死ぬし、その死はリセットすればなかったことになる。だから、死というものの実感がなくて、重要な事項として捉えられなくなってしまう。

 やはり、教えるべきことはきっちりと教え、それについて君はどう考えるのか。そういう会話を普段からしておくことが、絶対に必要だと思う。

※『医者の死生観 名医が語る「いのち」の終わり』から