「最後は『いま自分が着ているパーカーもネズミ色です』にしたら?」
その冗談に、こう返した。
「確かに自分はネズミ年生まれでもあるしね。だけど、灰色には『白黒つけない』ニュアンスがあるから、敵味方をはっきり分けるハリネズミに合わないよね」
やはり理屈っぽい。けっきょくそんな性格を自分は気に入っているのだろうと思い、ふと気づいた。
確かにがんは強敵だ。急に目の前に立ちはだかったかと思えば、体調や人との付き合いにさまざまな面倒を引き起こし、私が生きる世界を変えた。
しかし、と思う。がんが一体、私の何を変えたのか。
他人事としてみれば、もっと感情に押し流され、自暴自棄になっていてもおかしくない気がする。なのに自分は、良くも悪くも「相変わらず」だ。頭の中や置かれた状況をすべて言葉で説明しつくせないと、落ち着かない。そんな私を私たらしめている理屈っぽさを、がんはみじんも変えることができていないではないか。
他人事としてみれば、単に成長していないだけ、と思われるようなことかもしれない。なのに本人は、気づいたら指先から生まれていた画面の言葉を読み返し、ちょっと身震いをした。