大室正志医師「医師という仕事は今後もやりがいがあり、エキサイティングな仕事であることを疑っていない」
大室正志医師「医師という仕事は今後もやりがいがあり、エキサイティングな仕事であることを疑っていない」
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 少子高齢化が進む日本で、今後、医療の現場はどう変わっていくのか。AERAムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる2018』では、産業医の大室正志医師に、医学部を志望する学生に向けて「これから求められる医師像」を示してもらった。

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「カッコいい医師」は減るほうがいい!? 産業医・大室正志氏の目指すべき医師像よりつづく

 技術革新により、職人としての医師の「匠の技」が発揮できる分野が減ると同時に、医師としての「心の持ちよう」も分野によっては変化が求められます。

 私が専門としている産業医を例にしましょう。この分野は広義には予防医学に位置づけられます。21世紀は予防医学の時代と言われるように、産業医学にかかわらず予防医学は今後重要性を増していく分野です。

 しかしこの予防医学に対しモチベーションが保ちにくい。こんな医師が、結構多いのです。 

例えば胸の痛みを訴え救急車要請をし、車内で意識不明となり病院に搬送されてきた。こんな方がいたとします。原因は心筋梗塞。緊急で心臓カテーテルを用いた治療を行う。早めの治療により後に患者の意識も回復。

 当然治療を行った医師は、患者とその家族にすごく感謝されます。「先生のおかげで助かりました」と。

 一方で、予防医学の分野では、このような心筋梗塞を起こすリスクを減らすアプローチをします。心筋梗塞は肥満、高脂血症、高血圧、喫煙などがリスクファクターです。しかし特段の自覚症状がない方にとって、「痩せましょう。禁煙しましょう」と言うことは感謝されません。時には「うるさいなぁ」と煙たがられてしまうことさえあります。

 そもそも医師は感謝されることが好きな人が頑張れる分野です。

 事実、医学部を目指す理由で「人に感謝される職業だから」と言う方は多い。しかし皮肉なことに、21世紀の重大テーマである予防医学では、この「感謝されたい」をモチベーションにしてしまうとしんどくなってしまうのです。

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