野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中
野上祐(のがみ・ゆう)/1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局、沼津支局、名古屋社会部を経て政治部に。福島総局で次長(デスク)として働いていた2016年1月、がんの疑いを指摘され、手術。現在は抗がん剤治療を受けるなど、闘病中
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 病気になると、面会やメールでよく言われるのが「がんばって」だ。

 これほど多く言われるのは大学受験の時期以来で、言われた時の気持ちも、深刻さを除けば、ほぼ同じである。

「もう、とっくにがんばってます」

 とはいえ、いきなり病人になった知人に対し、それしか言いようがないのもよくわかる。わざわざ病院に足を運んでくれた人たちに「もう、とっくに」などとはとても言えない。

 面会の別れ際。そろそろあの言葉がやってくると感じると、先んじて「がんばります」と言ってしまう。相手も善意だ。気持ちよく帰ってもらいたい。また、わざわざ言葉を選ぶわずらわしさも避けたい――。いろいろな感情が入り交じる。

 がんばれ。それは近さと遠さを感じさせる言葉だ。

  ◇
「なに、なに」。配偶者がこう聞いてきたのも無理はない。テレビで野球のニュースを見ていた私が、病気になってから上げたことのないほどの大きな声で叫んだのだから。

「しだ、か!」

 そうか。今年3月のワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の中継で名前を呼ばれていた日本代表の「しだ」スコアラーは、あの志田宗大君だったのか。

 朝日新聞の記者は入社2、3年目に高校野球を担当することが多い。入社の翌年、初任地の仙台支局で取材したのが、宮城代表・仙台育英高の主将だった志田君だ。

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