海外には、アメリカの連邦準備制度理事会(FRB)で「金融の神様」「マエストロ」とよばれ、議長を約18年6カ月続け、退任時には79歳になっていたアラン・グリーンスパン氏のような例もある。菅義偉官房長官も「(黒田総裁の)年齢は全然考えたことがなかった。現時点で何も決めていないが、その時点で内閣として最善の方を任命する」(4月の共同通信の単独インタビュー)と語っている。本人が健康で、意欲さえあれば、再選を妨げないというメッセージとも受け取れる。

 もう1つの反対論は、財政政策についてのスタンスだ。

 黒田総裁は、経済財政諮問会議などの場で、首相に財政再建の必要性を説き、消費増税を実行するよう迫ったこともある。首相ブレーンは黒田総裁の財政政策についての発言を苦々しく感じてきた。

 首相ブレーンの1人である本田悦朗氏(駐スイス大使)は「金融政策を支える財政政策にする必要がある」と主張し、「黒田続投には反対」と明言したこともある。同じく首相ブレーンの中原伸之氏(元日銀審議委員)も、「黒田氏には2年で2%の物価上昇率を達成できなかった責任がある」として、続投には慎重な意見だ。

■ポスト安倍を狙う「岸破聖太郎」

 ただ、黒田総裁以外の人物を選ぶとしても、選択肢はそれほど多くない。

 日銀職員出身の中曽宏氏(副総裁)や雨宮正佳氏(理事)、首相ブレーンの本田氏や、第一次安倍政権のときの経済財政諮問会議で民間議員をつとめた伊藤隆敏氏(米コロンビア大学教授)、アジア開発銀行総裁の中尾武彦氏などの名前が挙がっている。

 しかし、いずれも、黒田総裁を上回るメリットがあるとは思えず、決め手に欠ける。中曽、雨宮の両氏を選べば、日銀がアベノミクス以前の政策に戻るというメッセージになりかねないし、本田氏は安倍首相の「お友達」という批判が出かねない。伊藤氏や中尾氏は財政政策で首相と考えが違う。

 さらに、いまの政策を継続しようと考えている安倍首相にとっては、黒田総裁以外を選択しようとすれば、2つのリスクが生じることにもなる。

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安倍首相が懸念する2つのリスクとは…