神奈川県座間市の9人殺害事件が浮かび上がらせたのは、SNSに「死にたい」という言葉を綴った少女たちの姿だった。強い言葉の裏に、本人も気付かなかったであろう別の気持ちが隠れていると臨床心理士の西澤寿樹さんは読み解きます。周りがSOSを汲み取るには、どうしたらいいのか。本人は? 身近なパートナーとの関係から考えます。
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自殺したいという女性をSNS使っておびき出し、次々と殺害したという凄惨な事件で、驚くべきことは、被害者の女性の誰一人として「本当は死にたくなかった」ということでしょう。それは白石隆浩容疑者が「『話を聞いてほしい』と言っていた。本当に死にたいと考えている人はいなかった」と話しているという報道からもわかります。
女性たちが思ってもいないことをSNSに「ネタ」として投稿していたわけではないはずです。彼女らは、本当に「死にたい」と意識していたと思われます。しかし、実際に殺されそうになって、「死にたくない」という気持ちに気づいた、というのが真相でしょう。
なぜ、こんな悲劇が起こってしまうのでしょう。
人の意識には、顕在意識と、無意識があります。無意識という概念はオーストリアの精神科医のフロイトによって提唱されました。無意識という概念ができたことで、人間はなぜ非合理的な行動をとるのか、ということにかなり説明がつくようになりました。
死にたくないのに、死にたい、と意識していたのは何故か、というのもその一例です。
彼女らは意識では「死にたい」、無意識では「生きたい」という矛盾した状態になっていたと考えられます。その場合、どうなるのでしょうか?
人間は無意識により大きく揺り動かされると考えられています。氷山の海面に出ている部分が意識だとすれば、その下にある何倍もの部分が無意識です。無意識と意識の葛藤が垣間見られる場面が、「考えではこうなのに(意識)、その通りには体や気持ちが動かない(無意識の抵抗)」という状況です。彼女らもそうだったのでしょう。