彼の言葉が直接妻に伝わることはないでしょうけど、そういうことが重なれば妻は自分たちの関係や、自分とのセックスがどう扱われているか感じると思われます。そういう伏線の元でめでたく妊娠・出産になった後、もう夫とはセックスしたくない、と感じても不思議ではありません。その彼がその後どうなったかは知りませんが、似たような経緯でセックスレスを訴えるクライアントさんは少なからずいらっしゃいます。
そんな苦労を乗り越えてでもわが子を得られれば、不妊治療をしなければ出会えなかったわが子に出会えるのですから、その幸せはいかばかりのものでしょう。しかし、その陰で残念ながら望みがかなわなかった夫婦もたくさんいます。
不妊治療をめぐる心理ケアの大きなテーマの一つが、撤退の決断です。不妊治療に限りませんが、莫大なお金と、時間、労力をかけてやってきたことが結局、結果を残せなかったという現実を認めるのはとてもつらいことです。
そして、話をさらに厄介にするのは、やはり2人だということです。違う人ですから諦めポイントが違います。ひとりが内心ではもう諦めていて、もう一人がまだ頑張りたいと思っているとき、夫婦ですから何となくその空気は分かりつつも、わかるからこそそのことがなかなか話せないで、ぎくしゃくしていき、しまいには会話もまともにできなくなってしまった、ということもままあります。もちろん不妊の原因と特定された側の人は申し訳なさや罪悪感もあるでしょう。
子どもがいれば多少ぎくしゃくしていても子どもを緩衝材にして話しをすることができますが、ぎくしゃくした2人だけなので、会話は絶望的に困難です。会話がないカップルにセックスは行われません。やはり、セックスレスになってしまうのです。
■どうすればよかったのか
こうすれば必ずうまくいく、という魔法の一手はなかなかないのですが、上に挙げたいくつかのケースの対応を考えてみます。