けれども、逆に言うと、このときドタキャンできたからこそ、約1年で復活できたのです。もし、あの日、無理に講習会をこなしていたら、おそらく症状は一気に悪化していたことでしょう。1年で復活することもできなかっただろうと予想されます。
“ドタキャン”は勇気がいることです。責任感の強い人、人間関係を大事にしている人こそ、一番、ありえない選択かもしれません。
でも、カウンセラーの立場から、こんな風に考えてほしいと考えています。
例えば、交通事故に遭ったら、どんなに大事な約束でも、人は“ドタキャン”します。それを責める人はそうはいないはずです。
心身のエネルギーが枯渇した「うつ状態」とは、深刻化すると、交通事故以上に自殺などによって死亡する可能性がある、大変なことになりかねない事態。だから、働き盛りの人こそ、あえて“ドタキャンする勇気”を、常に胸に持っていてほしいのです。
「自分だけは大丈夫」と思っている人、「仕事は絶対に休めない」とかたくなに思っている人ほど、感知できない疲労がたまり、うつ状態に近づいている可能性は高い。
ひとたび「うつ」に陥ったら、その“潜伏期間”が長いほど、完治までに時間がかかってしまうことが多いのです。
ドタキャンしたら「すべてを失う」と思うかもしれませんが、今思う“すべて”も、心身の健康があってこそ。
さらに言うと、長年、多くのクライアント、多くのケースに接してきましたが、仕事は断ったとしても、本当に縁のある仕事は、必ずまたオファーがあるものです。
登山のリーダーが、ときに撤退する勇気を問われるように、ぜひ“ドタキャンする勇気”を、長く生きるために育んでください。(構成・文/向山奈央子)