しかしだ。意外にも「そんなんいちいち言わんでええで、やりたい事やったらええねん」とあっさり快諾。当時、最年少座長として注目を集めて、大阪で吉本新喜劇の伝統を守りつつ、新しい事に挑戦してきた苦労人の小籔さんは、若手の挑戦に対しては非常に寛容だったのだ。
そして、何度か稽古を重ねての本番。しかし、実際の稽古ではイヤミのネタは披露したが、小籔さんがどのようにツッコミを入れてくるかまでは、やっていないため、正直ぶっつけ本番のところもあった。以前にも記したが、稽古では1から10までガチガチにやらないのが基本であり、お客さんの反応でツッコミを入れる方もいる。そのくらい座長クラスの方は、経験豊富であり確かな腕を持ち合わせている。
そして、本番。チンピラ扮する先輩と私が登場する。私は、サラサラヘアのカツラにイヤミが着ている紫のスーツで小籔さんに近づく。お芝居のなかでなかなかいう事を聞かない小籔さんに、先輩の「おい、こいつ(小籔さん)をビビらせてこい」というセリフで、私が脅しにいく。言葉で脅すがなかなか聞き入れない小籔さんに、遂に裸になる私。鍛えられた筋肉を見せつけていると先輩が「こいつはカンフーの達人やねん。いっちょ、ビビらせたれ」の合図で、カンフーの達人のように蹴りやパンチを巧みに出して「アチョーアチョー」とわめきながら、小籔座長に近づく。そして、小籔さんの目の前に来たところで、回し蹴りからの流れで、あのイヤミの「シェ?」を出した!
……。暫く沈黙があった。横では小籔さんの視線を感じる。が、ここでツッコミを入れるのはチンピラ役の先輩だ。先輩が、「おまえ、おそ松くんのイヤミやないかい、何してんねん!」と。
やはり笑いはおこらない。そしてもう一つのネタを出す。それは、先輩がウナギイヌ(天才バガボンに登場する犬でピンチを要領よく乗り切ると言われている)をやるのだ。
私のイヤミがあって、ツッコミがあり、私の「あっ、ウナギイヌだ」のフリで先輩が四つん這いになり、「誰がウナギイヌやねん」とノリツッコミ。これで、チンピラのネタが終わった。さて、反応は……。舞台上の共演者が顔を背けながら失笑するだけで、観客からの笑いは浅い……。小籔さんだけでなく、赤塚不二夫先生にも頭を下げたい気持ちになった。