そして苦しさを抱える人は、まるで切望するかのように自分の死や破滅を求めます。なぜなら存在否定の眼差しを自分自身にも向けてしまうからです。

 彼女は「この世のすべてのものに謝りました」と話しました。いじめを受けていた彼女に謝るべきことなど一つもないはずなのに。否定され続けた自分は許されない存在であり、それを懺悔する意味で「死」を誓ったのです。

 実は、多くの子どもたちは、いじめ以前にこの眼差しにさらされています。「子どもだから」とバカにされ、勉強ができなければ親から怒られる。自分の存在自体に価値はなく、「できる子」ならば愛され「できない子」は愛されない。そいういう中で育ってきた子は、子どもだけの世界になるとあからさまにスケープゴート(身代わり)を求めます。つまり自分の存在を肯定するために、ほかの誰かに存在否定の眼差しを向けるのです。

 これがいじめの成り立ちですが、いったい誰が最初に「存在否定の眼差し」を子どもに向けてきたのか。もっと社会の側が問われるべきだと思っています。

■追い詰められた子に何ができるのか

 実際に人知れずいじめを受け、自分の存在を否定されてきた人に対しては、何ができるのでしょうか。それは、存在自体を肯定される経験を積み重ねるしかないと私は思っています。

 私が知る限り、特別な場や特別なケアよりも、親がいっしょに笑ってくれるだけで、ずっと精神的に楽になるケースのほうが多いです。たわいもない話で笑いあったり、苦しかった気持ちを共感されたりするなど、なんでもない日常のなかに「肯定される」経験は転がっています。

 冒頭の彼女は現在「親が変わったことで家のなかで居場所ができた」と言います。不登校をしていますが、安心できる家のなかですごすことで気持ちはだいぶ救われているそうです。

 眼差しは、人を追い詰めることも、安心をもたらすこともできる。この点は、9月1日を前に、自殺リスクが高まる人にだけでなく、多くの方に知ってもらいたいと思っています。

(文/石井志昂)

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石井志昂

石井志昂

石井志昂(いしい・しこう)/1982年、東京都町田市出身。中学校受験を機に学校生活があわなくなり、教員や校則、いじめなどを理由に中学2年生から不登校。同年、フリースクール「東京シューレ」へ入会。19歳からNPO法人全国不登校新聞社が発行する『不登校新聞』のスタッフとなり、2006年から編集長。これまで、不登校の子どもや若者、識者など400人以上に取材してきた

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