医師不足が叫ばれるなか、日本の医療の将来において、医師の育成も重要な課題となっている。『病院は東京から破綻する 医師が「ゼロ」になる日』(朝日新聞出版)などの著書がある医療ガバナンス研究所の上昌広医師が、医療界におけるリーダー教育の必要性を語った。
* * *
夏休みだ。研究所には大勢の大学生がやってくる。今年も妹尾優希さん(スロバキア・コメニウス大学)、小坂真琴君(東京大学教養学部理科3類)、吉田いづみさん(ハンガリー・センメルワイス大学)らが学んでいる。
彼らに言うのは「教養を身につけ、行動すること」だ。教養は医学に限らない。文系・理系にこだわらず、幅広く学んだ方がいい。
私が最初に与える課題は、自らのルーツを調べ、発表することだ。
小坂君は滋賀県出身。近江商人を調べるというテーマを与えた。最初の課題図書としては、司馬遼太郎の『街道をゆく』シリーズをすすめた。このシリーズの記念すべき第1巻は『湖西のみち、甲州街道、長州路ほか』であるし、24巻は『近江散歩、奈良散歩』だからだ。司馬さんは滋賀県がお好きだったようだ。
小坂君は近江商人や滋賀県の学校教育を交え、自らの近江気質を分析した。結果はネットメディアで公開予定だ。
妹尾さんは栃木県出身。栃木とスロバキアの交流を課題とした。結果は興味深いものだった。栃木とスロバキアは、どちらもイチゴの産地。農業で交流を続けており、宇都宮にはスロバキアの名誉領事館がある。彼女の経験は下野新聞で報じられた。
また、彼ら3人は香川県丸亀市の麻田ヒデミ医師にご招待いただき、同地を訪問した。麻田医師は誠実な人物で、行動力・胆力とも申し分ない。東日本大震災の被災地支援で、随分とお世話になっている。
麻田医師のご厚意で、彼らは地元の子どもたちにプレゼンテーションする機会をいただいた。
妹尾さんは「丸亀のお子さんはアクティブでした。講義中にどんどん発言してきます。私が育った関東地方とは随分違いました」という。