東京を中心に首都圏には多くの医学部があるにもかかわらず、医師不足が続いている。だが、現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏は、著書『病院は東京から破綻する』で、深刻な看護師不足の現状についても明かしている。
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東京近郊では看護師も不足しており、そのために一部の病床が閉鎖されています。2007年7月には、東京都保健医療公社荏原病院の産科病棟の一つが閉鎖しました。
原因は看護師の欠員です。当時、荏原病院の看護体制は定数316人に対し、欠員が58人。これでは、病院機能は維持できません。14年6月、千葉県は県内の59病院で合計2517床が稼働していないと発表しました。このうち38病院は「看護師不足」を理由に挙げています。
背景には、厚労省が定めた看護師の配置基準と診療報酬の連動があります。06年度の診療報酬改定で「7対1入院基本料」が導入されました。入院患者7人に看護師1人以上を配置している病院に対して、一患者あたり一日1万5550円が診療報酬として支払われることになりました。そのため、看護師争奪戦が始まりました。看護師を確保できなかった病院は、診療報酬が下がるため、病床を閉鎖するところも出てきたのです。
ところが、日本の看護師不足は全国一律に生じているわけではありません。14年末現在、人口あたりの看護師数は極端な西高東低になっています(図)。東京都の人口10万人あたりの就業看護師数は727人で、埼玉県(569人)、千葉県(625人)、神奈川県(672人)、茨城県(674人)、愛知県(725人)に次いで少ないのです。
看護師が多いのは高知県で人口10万人あたり1314人です。ついで鹿児島県(1216人)、佐賀県(1200人)、熊本県(1189人)、長崎県(1182人)と続きます。高知県には人口10万人あたり東京都の2倍近い看護師が就労しています。