「肝臓は放射線感受性が高い。つまりダメージも受けやすい臓器です。治療に必要な線量を照射すると正常な組織が傷ついてしまうため、肝臓がんでは放射線は根治的な治療でなく、症状緩和の場面などで使われてきました」
肝臓内のがんは呼吸とともに動くため、ピンポイントで照射することは難しかった。しかし近年、大幅に改善された。
「エックス線治療機器の進歩は目覚ましいものがあります。息を吐き終えたタイミングを待ち伏せして照射する技術や、ターゲットを追尾して照射することも可能になりました。またエックス線を集めてピンポイントで照射する定位照射の技術によって、必要な線量を無駄なく腫瘍にあてることができるようになりました」(櫻井医師)
現在は、5センチまでの比較的小型で、少数の肝細胞がんならば保険適用となる。通常、治療は4~5回通院し、照射を行う。放射線治療後にがんが再発しない割合(局所制御率)は9割を超える。ラジオ波焼灼術が行えない、血管や肺に近い病変がよい適応とされている。
「定位照射のメリットは無痛なことです。高齢者や糖尿病などの持病がある人は、体の負担が少ない放射線治療も選択肢に組み入れて考えてほしい」(同)
定位照射が大型や多数個のがんに適さない理由はエックス線の特性にある。エックス線は病変に照射された後、通過していく。少数、小型ならば影響も少ないが、照射範囲が大きくなれば正常組織に抜けていく放射線も多くなる。その弱点を克服するのが陽子線や重粒子線だ。
「陽子線・重粒子線はターゲットの病巣に最も強い線量があたり、そこで止まります。病巣奥の線量はゼロ。がん周囲の正常組織の被曝が避けられるのです。定位照射ではエックス線の通過を考慮し、照射線量を抑えますが、陽子線・重粒子線では線量を十分にかけることができます」(同)
陽子線・重粒子線でもがんの個数は三つまでと制限がある。しかし、大きさは基本的に無制限。肝臓の片側いっぱいに広がっているようなケースにも対応可能だ。(文/山崎正巳)