「Good-bye My Loneliness」「揺れる想い」などデビュー当時からZARDのヴォーカルとしてミリオンセラーを連発した坂井泉水さんだが、交友関係など私生活はほとんど明らかになっていない。しかし、デビュー前から親しい仲間がいた。2歳年下でバックコーラスとしてレコーディングに参加した同じビーイング所属のアーティストの大黒摩季さんだ。
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「ねえ、摩季ちゃん~」
坂井泉水さんがいたずらっぽい笑みで近づいてくると、大黒摩季さんはいつもビクッと緊張する。
<何かいけないことをしようとしているに違いない!>
大黒さんの心の中で危険信号が点滅する。
「泉水ちゃん……、な……、なに?」
「私、ちょっと、行ってみたいレストランがあるんだけど」
坂井さんは微笑みのままだ。
「えっ……、今、行くの……?」
「摩季ちゃんも一緒に、ね!」
大黒さんと坂井さんは、マネージメントオフィスも所属レコード会社も同じビーイング。坂井さんは大黒さんより2歳年上だった。
「私も?」
「うん。ちょっと、スタジオ、抜け出してさあ」
“悪魔のささやき”だ。
坂井さんに誘われるのは、ほとんどの場合、大黒さんがクルマを運転してスタジオに来ているときだった。坂井さんはペーパードライバーで、普段は電車で通っていた。
「大ヒットしてからの泉水ちゃんは、相当厳しいスケジュール下にあったので、プライベートは皆無だったと思います。それで、スタジオ作業のすきを見つけて、小悪魔顔で私を誘ってきました。スタッフの目を盗んで、2人で食事に行ったり、カフェに行ったり。後で会社の人に怒鳴られるのは私でしたけど(笑)。それでも、泉水ちゃんの誘いは断れなかった。あのキュートで悪い目は、憎めませんでした。楽しかったなあー」
2人の出会いは、ZARDのデビュー曲「Good-bye My Loneliness」のレコーディング。大黒さんはコーラスで参加した。CDジャケットになった黒の革ジャン姿の坂井さんがソファに座るその元の写真には、デビュー前の10代だった大黒さんも写っている。